約 1,207,331 件
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/978.html
【4月1日】 『本当と嘘』 タルト「今日はエイプリルフールや! ふふっ~ピーチはん、騙したろ」 ラブ 「ん? どうしたの、タルト」 タルト「ちょいと小耳に挟んだんやけどな、今、トリニティが広場でコンサートやってるらしいで」 ラブ 「ホントっ! 行く行く!」 せつな「ダメよ、タルト。エイプリルフールは午前中までなのよ」 ラブ 「ひど~い! 嘘だったんだ」 タルト「せやったんか、スンマセン」 せつな「それよりも、デパートでオード○ーのサイン回があるそうよ」 タルト「なんやて! はよ行かなっ!」 ラブ 「タルト、凄い勢いで行っちゃった。そんなのあったんだ」 せつな「ないわよ? 実はまだ、正午はまわってないのよね」 【4月2日】 『それぞれの花見』 ラブ 「桜ってとっても綺麗だよね! ずっと咲いていてほしいな!」 美希 「でも、短いと知ってるからこそ、こんなにも完璧に咲くんじゃないかしら」 祈里 「すぐ散ってしまうけど、毎年咲くと信じられる。それはとっても素敵なことよ」 ラブ 「せつなはどう思う?」 せつな「私にわかるのは、桜も、精一杯生きてるってことだけよ」 【4月3日】 『スワンボート』 せつな「池で白鳥のボートに乗るのよ。私、前から乗ってみたかったの!」 祈里 「せつなちゃん、すごく楽しそう。なんだかこっちまで嬉しくなっちゃう」 ラブ 「せつなって不思議。修学旅行で飛行機に乗っても澄ました顔してたのに」 せつな「小さな乗り物や、ささやかな出来事の方が大きな幸せを感じるの。変かしら?」 ラブ 「ううん、ちっとも変じゃないよ! あたし、必死でボート漕ぐからね!」 美希 「だから……普通でいいのよ、ラブ。ちゃんとせつなの話聞いてる?」 せつな「それに、美希とブッキーが一緒だから……」 美希 「アタシと乗りましょう! 完璧なコース取りで周ってみせるわ!」 祈里 「美希ちゃん……。普通でいいんじゃなかったの?」 【4月4日】 『素朴な疑問』 キュアパッション「真っ赤なハートは幸せの証! 熟れたて・フレッシュ・キュアパッション!!」 ラブ 「ここで質問のお葉書です。どうして、熟れたてなのにフレッシュなんですか? だって?」 せつな「耳にたこができそうよ……」 美希 「ひいっ! タコ!!」 せつな「そっちのタコじゃないわよ……。そもそも、どこからそんな葉書きが来たのよ……」 祈里 「わたしから説明するね。熟れるとは、果実の一番美味しい状態のことなの。その分、傷みやすいから鮮度が重要なのよ」 美希 「だから、熟れたてはフレッシュで間違いじゃないのね」 ラブ 「質問に続きがあるよ。どうして、そんなにマイナーな果実なんですか? だって?」 せつな「次の質問にいってみましょう……」 美祈 『そうね……』 【4月5日】 『代金は笑顔です』 カオルちゃん「春の新作。おじさんの作った桜ドーナツ、食べてみる~?」 ラブ 「わ~、綺麗な色のドーナツ!」 美希 「色だけじゃないわ。花の香りがする」 せつな「それに美味しい。五感すべてで楽しめるのね」 ラブ 「ごちそうさま! いくらなの?」 カオルちゃん「桜の咲いてる時期だけはサービスでいいよん」 ラブ 「そんなの悪いよ。普段はいくらするの?」 カオルちゃん「桜の咲いてる時期しか作らないんだよね、ぐはっ」 【4月6日】 『リーダーの共通点?』 ミユキ「春ってだーい好き! なんだかワクワクしてくるわ!」 ラブ 「わかります! ウキウキして、じっとしていられなくて」 ミユキ「なんだか、新しいことに挑戦してみたくなったりね!」 ラブ 「おっきな声を出したり、はしゃいでみたくなりますよね」 ラ・ミ『ね~!!』 美祈せ(この二人って、なんだか似てる気がする……) 【4月7日】 『完璧なまでにあり得ない』 シフォン「シフォン、チューリップだいちゅき~!」 せつな「私も、特に赤いチューリップがね」 祈里 「チューリップの花言葉は愛、世界中で人気があるのよ」 ラブ 「黄色とピンク色もみ~つけた! そうだ! みんなで自分の色のチューリップ育てようよ!」 美希 「青い色もあるのかしら?」 ラ祈せ「………………」 【4月8日】 『サウラーの食べ比べ』 ウエスター「ウ~ン、桜餅もなかなかデリシャス。あんこはこしあんに限るなぁ」 タルト 「桜餅ならせやなぁ。でも、大福なら粒あんも美味いでぇ~」 ウエスター「おう、兄弟! もちろん粒あんも好きだぞ」 タルト 「これな、アズキーナはんの作った豆大福なんや。食べてみ?」 サウラー 「どれ――――粒あんもこしあんも、味が薄すぎるね」 ウエスター「お前は甘いコーヒーの飲みすぎだ……」 【4月9日】 『これからも一緒』 美希 「今日は、モデルのオーディションがあるの。きっと選ばれてみせるわ!」 せつな「終わったら、フランスに行ってしまうの?」 美希 「選ばれたらそうなるわね」 せつな「そう。離れていても、心は一つよ、美希」 美希 「うん、わかってる。ありがとう」 せつな「だから、寂しくなんてないわ」 美希 「アタシもよ」 せつな「いつでもアカルンで会いにいけるから」 美希 「うん、待ってる。――――だから、泣かないでよ……」 美希 (って……。最終選考で落ちちゃった。合わせる顔が無いわ……) ラ祈せ「美希! ざんねーん!」 美希 「なんで残念会なのよ……。嬉しそうな顔しないでよ、悔しくなくなるじゃない」 【4月10日】 『おろしたての制服が失敗だったの……』 祈里 「新入学の一年生、みんなとっても可愛いわね」 新入生「あの~一年生の校舎はどっちでしょうか?」 祈里 「右手の赤い建物がそうよ」 新入生「ありがとう~。そうだ、一緒に行こう!」 祈里 「えっ? あ、あのっ、わたしは三年生なの……」 新入生「やだっ! 本当だ、襟の色が違う……。失礼しました~」 祈里 「ということがあったの……」 ラ美せ『プゥ~~~~クックックッ』 祈里 「いいもん!」 避2-688へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/661.html
幸せの赤い翼――翼の種子のパッション(第8話 イース対プリキュア) 四つ葉公園のステージの入り口で、ラブたちが足を止める。『立ち入り禁止』と書かれた黄色い看板が、行く手を阻んでいた。更には数名のガードマンが巡回している。 いつもなら、スチールフェンスに南京錠が掛けられているだけで、警備の人はイベントがある時に見るだけだ。ラブは顔見知りの一人に事情を尋ねた。 「おじさん、こんにちは! 今日は、ここで何かあるの?」 「やあ、ラブちゃん。残念だけど、ここには入れないよ。昨日のラビリンスの襲撃で床の一部が破損したらしくてね、危険だから使用禁止になったんだ。明日には復旧工事が始まるから、しばらく余所でレッスンしてもらえるかな」 「そんなぁ、よそって言われても……」 ラブたちが顔を見合わせる。確かに通常のダンスレッスンなら、他の場所でも出来るだろう。だが、今日の本当の目的はプリキュアの特訓だ。人目を考えると、どこでもというわけにも行かない。 三人は一旦引き下がって、ガードマンから離れたところで顔を突き合わせた。 「どうしよう……ミユキさんに相談してみようか?」 「それよりも、もっと確実な方法があるわよ。ね、ブッキー」 「え? 確実って……美希ちゃん、もしかして!」 困った顔でリンクルンを取り出すラブに、美希が悪戯っぽい笑みを浮かべる。 パチリとウインクしたことで、祈里にも美希が何をしようとしているのか理解できたようだった。 ラブたちは、再びガードマンに駆け寄る。ただし――今度はプリキュアの姿で。 「プリキュアです! 訳あってここを使わせていただきます。危険ですから、誰も入れないようにお願いします」 「はっ! 了解しました!」 彼らは一瞬硬直した後、一様に最敬礼して指示に従った。錠が外されて、フェンスの扉が開かれる。 「お勤め、ご苦労さまです!」 「ありがとう、おじさん」 “おじさん”と、親しげな口調で声を掛けられたガードマンが首をかしげる。「プリキュアに、知り合いなんて居ないはずだが……」と。 いずれにせよ、プリキュアはこの街の恩人で英雄だ。彼女たちへの協力は、いかなる状況においても最優先される。ガードマンたちは、これまで以上の熱心さで、張り切って警備に勤めるのだった。 『幸せの赤い翼――翼の種子のパッション(イース対プリキュア)――』 タン、タン、タン、と軽快なステップを踏みながらピーチが舞う。ダンス――ではなかった。ベリーとパインが、前後左右から波状攻撃を仕掛ける。 ピーチはそれらを華麗に避けながら、間隙を縫ってスティックを振っていく。 まるで――踊るようにステップを踏んで。 そして――歌うように詠唱を完成させる。 “ダブル・プリキュア・キック!!” 業を煮やしたベリーとパインが勝負に出る。空高く舞い上がり、太陽を背にして、矢のような勢いで渾身の蹴りを放った。 ピーチはとっさに上空に跳んで攻撃をやり過ごし、最後の一振りを完成させた。 「そうは――!」 「させないからっ!」 上空は攻撃には有利だが、足場が無い分だけ防御には不利だ。先に着地したベリーとパインは、すぐさま投石を放った。 たかが石ころ――でも、プリキュアの全力で放たれた飛礫は、銃弾を超えて砲弾並みの威力を持つ。ピーチはそれをキュアスティックで迎え撃った。 「悪いの、悪いの、飛んでいけ! プリキュア・ラブ・サンシャイン・フレーッシュ!」 威力は通常の数十分の一。糸のように細く絞った光が、飛礫から飛礫へとジグザグに飛ぶ。 技が打ち砕くのは攻撃力だけ。光に掴まった石は運動能力を奪われて、乾いた音を立てて地面に落下した。 ピーチは軽やかに着地して、ガッツポーズを決める。ベリーとパインも笑顔で駆け寄った。 「お見事! 完璧ね、ピーチ」 「うん。これならソレワターセとだって!」 しかし、そこで三人の表情が凍り付く。 彼女たちの視線の先には、いつ現れたのか、不敵に腕を組んだイースが立っていた。 「ソレワターセとだって、だと? 何やら小器用な技を身に着けたようだが、そんなものが通じると思っているのか?」 「やっぱり、あたしたちを追って来たんだね。そうじゃないかと思ったよ」 「パッションが抜けたから、シフォンを狙うより、倒す方が効率がいいと思ったの? だとしたら――」 「大間違いよ! 今度は、負けない!」 事前に調べておいたのか、今しがた確認したのか。イースは、彼女たちが三人だけで行動しているのを見透かしているようだった。 グランドフィナーレが使えず、せつなもここには居ない。絶対的な有利を確信して、ジョーカーの札を切る。 「ソレワターセ、姿を現せ!」 ナケワメーケが“集める”ことに特化した魔物なら、ソレワターセは“奪う”ことに特化した魔物だ。 今回の略奪のターゲットは、プリキュアの命そのもの。“ついで”で戦っていたこれまでと違い、初めからプリキュアの抹殺に目的を絞って挑むのだ。 攻勢を強めるソレワターセを前に、たちまちプリキュアは劣勢に陥っていく。 しかし、イースには一つだけ不安要素があった。ノーザは彼女に対して、「プリキュアを倒せ」ではなくて、「追い詰めて本気を引き出せ」と命じたのだ。 (その真意――あるいは……) イースの危惧は、やがて現実のものとなった。徐々に、プリキュアがソレワターセに拮抗し始めたのだ。 かつての彼女たちには、メンバーが一人でも欠けると動きがチグハグになる弱点があった。しかし、今はまるで、もともと三人であったかのようなコンビネーションを見せている。 動きに迷いがなく、闘志にも揺らぎが感じられない。とてもではないが、「本来の力」を失っている者たちの戦いではなかった。 たまらず公園の木々を取り込んで、ソレワターセがさらに巨大化する。まがまがしい青紫色の葉を茂らせた大樹のような姿となって、プリキュアたちに向かって高速で蔦を伸ばす。 だが、それすらも簡単に跳ね除けられてしまった。 「なぜだ! どうして三人だけでここまで戦える?」 イースの問いかけに、ピーチたちが敢然と答える。 「離れていても、あたしたちはいつも一緒だから!」 「そう。せつなは一人じゃない! 決して一人にはならない!」 「いつだって心は繋がっている。わたしたちは、四人で戦ってるの!」 「「「みんなで! 幸せゲットするために!!!」」」 “プリキュア・コンビネーション・キック!!!” 叫びと共に、プリキュアたちがソレワターセの巨体に向かって、タイミングをズラしてキックを放つ。 ピーチは右肩を、ベリーは左肩を、パインは軸足を。それぞれ順に蹴り飛ばすことで、ソレワターセを独楽のように回転させ、ついに転倒させた。 「みんな、行くよ!」 ピーチの合図で、三人が必殺技の発動準備に入る。ピーチ、ベリー、パインの呼びかけに応じて、プリキュアの妖精が姿を現す。 愛の桃色のカギ“ピルン”・希望の青いカギ“ブルン”・祈りの黄色いカギ“キルン”。 くるくると舞い踊り、リンクルンの封印を解き放つ。 「はっ!」 「とうっ!」 「えいっ!」 開放の儀式、三人の乙女の祈り。 それぞれがリンクルンのローラーを回す。 ピーチはすくい上げるように、ベリーは水平に切り裂くように、パインは優しく弾くように。 “届け! 愛のメロディー! キュアスティック、ピーチロッド” “響け! 希望のリズム! キュアスティック、ベリーソード” “癒せ! 祈りのハーモニー! キュアスティック、パインフルート” ピーチはロッドを滑らすように――ベリーは帯刀からの抜刀の動きで――パインはフルートを奏でるように。 それぞれのスティックの鍵盤から聖なる旋律が鳴り響く。 “悪いの、悪いの、飛んで行け! プリキュア!!!” “ラブ・サンシャイン” “エスポワール・シャワー” “ヒーリング・プレアー” 凝縮されたエネルギーが、解放を求めて先端に集う。 ハートとスペードとダイヤの形をした力の結晶が、光弾となってソレワターセに襲いかかる。 「そんなものが、通じるものかっ! 弾き返せ、ソレワターセ!」 ソレワターセは、枝と葉を光弾側に集中展開させてシールドを張る。その守りは、たった三人のキュアスティックなど、訳もなく防ぐ力があった。 そう――シールドで受け止めたならば。 「そうやって防ぐってことは、当たると痛いってことだよね!?」 三人の放った光は、ソレワターセに命中する直前に軌道を変えて、垂直に舞い上がる。 ピンク・ブルー・イエローの三色の光が、螺旋を描きながら一塊になって飛ぶ。遥か上空、視界の外まで翔け抜ける。 これこそが特訓の成果であり、ここからが切り札だった。 「だあぁぁ――!」 「ヤアァァ――!」 「はあぁぁ――!」 ピーチがロッドを采配のように下し、続いてベリーがソードで斬り付け、最後にパインがフルートを振り落とす。 回転・加速したキュアスティックの光が、落雷の勢いと疾さで――シールドをすり抜けてソレワターセを貫いた。 “フレ――ッシュ!!!” 『はあぁぁ――!!!』三人のスティックの先端が円を描く。 「シュワ~シュワ~」 パンッ! パンッ! と弾けるような音を立てながら、ソレワターセーは消滅した。 「くっ、次こそは――必ず!」 イースは背を向けて走り去ろうとする。しかし、その進行方向にソードを構えたベリーが立ちはだかっていた。 「悪いけど、ここは通せないわ」 同じく左後方からはピーチが、右後方からはパインが、それぞれイースを包囲する。 「本当はね、今までだって何度も倒すチャンスはあったんだよ」 「でも、逃げる人まで傷付けたくなかったから……」 「いつか、わかりあえるって思ったから!」 ピーチが振り絞った声で告げる。 「でも、あたしのそんな甘い判断が、せつなをあんなに傷付けた……。だから、ここは通せない! お願い、あなたソレワターセなんでしょ? せつなの能力を返して! さもないと、倒してでも奪い返すから!」 「まるで、これまでは見逃してやっていたかのような言い草だな……。いいだろう。お前たちなど私の敵ではないことを、ここで証明してやる!」 気合一閃! イースがピーチに向かって詰め寄る。 高速の拳を連打で叩き込み、最後に蹴り飛ばす。更に追撃をかけようとして、ベリーとパインの挟撃に阻まれた。 イースはベリーのキックを受け流し、パインのパンチをガードで耐える。 そして二人は離れ、再びイースが囲まれた最初の陣形へと戻った。 「ピ-チ、大丈夫?」 「うん……。なんともないよ」 「なんとも!?」 驚いたのはベリーだけではなかった。ピーチ自身が信じられないような顔で、まるで痛まない身体を確かめながら頷く。 反対にイースは顔をしかめて、ダメージを受けた腕を押さえていた。 「考えるのは後にしましょう。ここで決めるわよ! ピーチ、パイン!」 「そうだね――わかったよ!」 「そのための特訓だったよね」 三人が必殺技の発動モーションに入る。これまでのキュアスティックならば、小柄で敏捷なイースにはまず当てられない。だが今は、囲まれている上に負傷までしている。 何より、もはやピーチたちは、光弾をコントロールして追尾させることもできるのだ。 一か八か、イースの身体がユラリと揺らぐ。 イースの回避が先か――キュアスティックが捉えるのが先か―― しかし、そのどちらでもなかった。 一陣の疾風を纏って、何者かがイースの前に割って入った。戦いに「待った」をかけるかのように、ピーチの正面に立って両手を広げる。 赤いカットソーに紺のスカート。戦いの場にあまりにもそぐわない、普段着姿の少女。 問うまでもなく、東せつなその人であった。 「せつなっ! どうしてここに? なんで止めるの?」 「ごめんなさい。理由は後で話すから、とにかくキュアスティックを下げて」 「事情を話すのが先よ、せつな。このチャンスを逃すわけにはいかないわ!」 「聞かせて、せつなちゃん。わからないことが多すぎる」 切っ先にエネルギーを貯めた、いつでも発射できる状態で、ピーチたちはキュアスティックを構える。 それも、三方向からの誘導弾だ。せつながどう庇ったところで、彼女を回避してイースに命中させるのは難しくなかった。 イースもそれを承知しているため、迂闊には動けずにいた。 「あーら、何を教えてくれるの? 是非聞かせてもらいたいけど、先にイースを連れて帰っても良いかしら?」 突如空間が歪み、この均衡を破る、新たなる来訪者が姿を見せた。 のんびりした口調でありながら、聞く者に寒気を感じさせるような凄みを伴った声。 ラビリンスの最高幹部、ノーザだった。 「ノーザ……。あなただけは――絶対に許さない!」 ギリッと歯を噛み合せてピーチが唸る。まるで暴発するかのように、ラブ・サンシャインの光弾がノーザ目がけて飛んだ。 軽くかわしたノーザに、更にUターンして光が迫る。 「あら――恐いわぁ」 光がノーザを貫通した、と思った途端、ノーザの姿が掻き消える。目標を失った光は、そのまま大気に散った。 「どこっ? どこなのっ!?」 ピーチが驚いて辺りを見回す。ノーザは、そんなピーチを嘲笑うかのように、まるで初めからそこに居たような自然さで、イースの傍らに立っていた。 「フフフ、イースは返してもらったわよ」 「待ちなさい!」 「行かせないわ!」 ベリーとパインが走る。キュアスティックは使えなかった。ピーチのフライングに気を取られたせいで、切っ先に溜めていたエネルギーは失われてしまったのだ。 しかし二人の到着を待たずして、ノーザはイースを連れて、空間の裂け目の中に姿を消した。 せつなは動かなかった。いや、動けなかった。 立ち去り際に、ノーザがせつなの耳元で囁いたのだ。 「おかあさんとのデートは楽しかった? せっちゃん」と……。 せつな、ラブ、美希、祈里が、クローバータウンストリートに向かって全速力で駆ける。とりあえずの目的地は、あゆみと別れた喫茶店だ。 イースとの戦いを止めた理由を聞くのは、他でもないせつなの一言で後回しとなった。 ノーザが去った後、青ざめた顔で彼女が告げたのだ。「おかあさんが、襲われたかもしれない」と―― せつなは、疾走による呼吸の乱れとは別の理由で、心臓が破れそうなほどに激しく鼓動を打ち鳴らしていた。 どうか、杞憂であって欲しいと願った。ノーザがあの場を逃れるための、その場凌ぎの脅しであればいいと。 ちゃんとシフォンには気を付けていたつもりだった。タルトも一緒にバッグの中に入ってもらって、片時も離れなかった。 一緒に出掛けたメンバーの中で、戦えるのは自分だけであることも自覚していた。だからこそ、自衛手段を持たないあゆみには、十分に配慮するべきだった。 (どうして――よりにもよって、おかあさんなのっ!) 祈るような気持ちで、力いっぱいに喫茶店のドアを開く。驚く店員を無視して、四人はあゆみが座っていたテーブルに駆け寄った。 「居ないわね。おばさん、もう家に帰ったんじゃないかしら」 「でも、携帯にかけても繋がらなかったし……」 「帰る途中なんじゃない? 周囲の雑音のせいで呼び出し音に気付かないのかも」 話し合うラブたちを余所に、せつなは黙々とあゆみの痕跡を探す。 そこに、さっきの店員が声を掛けてきた。 「あの~、先程から、そちらの席のお客様の姿が見えないのですが……。お知り合いなら、お会計をお願いできないでしょうか?」 その一言で、その場が凍り付いた。せつなとラブは血相を変えて店内を駆け巡る。美希は化粧室を覗きに行った。仕方なく、残された祈里が会計を済ます。 結局、あゆみが店から出たのを見た人は居なかった。いつからか、忽然と姿を消したらしい、ということしか判らなかった。 もう――疑うまでもない。こんな真似が出来るのは、空間移動を行えるノーザだけだ。 かと言って諦められるはずもなく、それから数時間に渡って、四人による懸命な捜索が行われた。もちろん警察にも連絡したが、本当にラビリンスの仕業なら成果は期待出来ないだろう。 最悪の展開だった。せめてあゆみを攫ったのが、ウエスターかサウラーであったなら……と思う。 彼らの拠点は占い館であり、入れるかどうかはともかく、居場所だけは判明している。 その点、ノーザは神出鬼没だ。彼女が果たして占い館に住んでいるのか――どうもそうは思えない。それどころか、この世界に居るという保証もない。 ただ、何か意図があって誘拐した以上、必ず要求があるはずだ。今はそれを待つより他なかった。 一日中全力で走り回った上に、精神的な不安も重なり、クタクタに疲れ果てたせつなが自室に戻る。 ラブにシフォンとタルトを預けて、一人、部屋の中で苦しげな息を吐く。 現在、置かれた状況こそが、これ以上無いくらい最悪なんだと思っていた。その甘い認識を、一体何度塗り替えられたことだろう。 ベッドに身を預けたものの、眠る気になんてなれなかった。こうしている間にも、あゆみがどんな目に遭っているかわからないのだ。 それでも軽く目を閉じて、今日起きた出来事を順に思い出す。 そこに――見落としている、何かのヒントがあるかもしれないと期待して。 特訓に出かけるラブを見送って、その後にあゆみに映画に誘われた。そのタイトルは、『ドッペルゲンガー(~もう一人の私~)』だった。 狙い済ましたようなタイトル。完全に一致する魔物と自分の立ち位置。 勿論、あゆみが全てを承知で誘ったわけがない。かと言って、ノーザの手引きにしては、彼女にメリットが何もない。偶然にしても出来すぎているなら、これはきっと運命なのだろう。 (内容は、鏡の中のもう一人の自分が……。――鏡?) そこで、何かが引っかかった。 もとよりこの一連の苦境は、ラビリンスからの招待状が、部屋の“鏡”を通じて届いたことから始まっていた。 手紙は、せつな個人に宛てて送られたメッセージだった。もしかしたら―― (まさか――いや、きっと!) せつなはベッドから静かに立ち上がり、恐る恐る姿見を覗き込む。 鏡に映るのは、反転した部屋の姿。しかし、構図が逆なだけではない、大きな違いがあった。 現実の部屋には無くて、鏡にだけ映っている人物。うつ伏せに倒れている女性。ピンクのカーディガンに、鮮やかな赤のスカート。 (やっぱり! おかあさん……) ノーザは、今日一日のせつなとあゆみの行動を監視していたのだろう。そこでせつなの心境の変化を知って、次の手を打ってきたに違いなかった。 せつなは悲痛な表情で鏡を覗き込む。しかし、姿見の中に手を差し出そうとしても、冷たい鏡面に阻まれるだけだった。 (どうしたらいいの? 一体、どうすれば助け出せるの?) せつなは焦る気持ちを抑えて、懸命に頭を働かせる。 シフォンの能力は不安定で、転移ポイントの指定は出来ない。スウィーツ王国の力でも、いや、ラビリンスの転移技術ですら、鏡の中の世界などという特殊な空間の出入りは不可能だろう。 そんな真似ができるのは、ノーザ本人か、あるいは、アカルンに選ばれた本物の東せつなのみ。 (だったら、イースを捕らえて、目を覚まさせて……) そこまで考えて、せつなは首を振る。それが可能としても、一体何時間、いや、何日かかるのか。 この中の環境がどうなっているかなんてわからない。それまで、あゆみが無事でいられる保障なんてないのだ。 (こうなってみると、昼間の戦闘でイースを逃がしてしまったのが、心底悔やまれる……) ふと気付く。本物のせつななら、確かにあゆみを助け出せるだろう。アカルンの瞬間移動の力は、ノーザすら超えて全パラレルで最強だ。 しかし、偽者だからこそ、出来ることもあるのではないか? 現に、自分の戦闘能力はイースやパッションすら凌いで、恐らくはノーザすら圧倒するだろう。 (考えろ――自分が何者であるのかを……) すぐに答えは出た。そして、思いついてしまった策に、嫌悪感のあまり、思わず身が震えた。 それでも、これがあゆみを今すぐに、それも確実に救える唯一の方法だった。 (鏡の中に入る手段が無いのなら、自分の中に鏡を取り込むまで) せつなは部屋の電気を消した。赤いカーテンも閉じて、なるべく光を遮断する。それでも、完全な暗闇が訪れるには時間が早すぎた。 いや、どうしたところで、視界を塞いだまま遂行できる作業ではない。 せつなは初めて、自分から頭の中に呼びかける。深層心理の奥の奥、赤黒い闇の底に潜むモノ。 破壊と略奪を繰り返す本能。常に満たされぬ欲望。虚無ゆえに飢えし渇望。邪悪なる意志が、少女の身体の解放を求める。 その――体内に虫が這い回るようなおぞましい感覚に、思わず拒絶してしまいそうになる。 せつなは両肩を抱き、歯を食いしばって耐えた。挫けそうな心を鼓舞するために、あゆみの言葉を思い出す。 『そうじゃなくて、あなたが帰ってくるのよ』 『なんだか今のせっちゃんは、別の人のような気がして……。でも、今の積極的なせっちゃんも大好きよ』 初めて――本当の自分を見てくれた人だった。 帰ってきなさいって――居場所を与えてくれた人だった。 自分でも、あるかどうかもわからない――人としての心を、「ある」と信じてくれた人だった。 “欲しいなら――奪え” (ええ、欲しいわっ! もう一度、おかあさんの声が聞きたい。優しい笑顔が見たい。誰のためでもなく――私自身のために!) せつなは最後の枷を外し、内なる力を解放していく。 (お願い――おかあさん。せめて私が助け出すまで、目を覚まさないで……) 祈るように頭を垂れた首の後ろから、怪しい緑色の光が放たれた。 せつなの身体が変化していく。愛らしい少女の姿から、醜い植物の化け物の姿へと。 艶やかな黒髪は濃緑の葉に、細く美しい手足はゴツゴツとした枝に、華奢な肢体は赤い目が宿る太い幹に、一切の面影すら残さずに―― ソレワターセの姿に戻ったせつなは、目の前の姿見を取り込むと、同化して鏡型の化け物となった。 そして自分の体内から、造作も無く一人の女性を取り出した。 目的を果たしたソレワターセは、取り込んだ鏡を己の身体から切り離しつつ、あゆみをそっとベッドの上に降ろした。 そこで――見てしまった。 あゆみを抱える自分の、枝のような腕を。 元に戻った鏡に映った、植物のような自分の姿を。 身体に流れる血の色を――確かめることすら恐れていた少女だった。 わかっていても、おぞましくて。覚悟していても、受け入れられなくて。 目の前に突きつけられる正体。言い逃れの出来ない真実。 理解していたのは、頭だけだったと思い知る。 「嫌ぁぁあああ――!!」 そう、叫んだつもりだった。実際には、人の言葉にはならなかった。 ただソレワターセは、その中のせつなの心は、恐怖と混乱のまま絶叫するのだった。 その頃、ラブは自分の部屋でタルトから事情を聞いていた。 今日一日のこと。そこで何があったのか、せつなから聞ける雰囲気ではなかった。 大半は愚痴だった。狭いカバンの中に一日中押し込められていたこと。一度も出してもらえなかったこと。自分も映画を見たかったこと。 だけど、せつなとあゆみの様子が実に楽しそうで、微笑ましかったこと。 有益な情報のないまま相槌を打っていたラブは、突然聞こえてきた大きな声に、驚いて顔を上げた。 ラビリンスの化け物の雄叫びと似ている気もしたが、あんな響きをラブは知らない。まるで獣のような、それでいて深い悲しみを伴った、慟哭の声。 「せつなっ! どうしたの? 何かあったの!?」 ラブが部屋を飛び出し、隣室のドアを乱暴にノックする。だが、ノブには鍵が掛けられていた。そして、絶叫は紛れもなくこの部屋の中から聞こえてくる。 仕方なく、ラブは自分の部屋に取って返し、ベランダへ出た。せつなの部屋はカーテンが閉められ、窓の鍵も掛けられている。ラブは部屋から椅子を取ってくると、躊躇なくそれを窓に叩き付けた。 ガッシャ――ン!! 高い音を立てて窓に穴が開く。ラブはそこから手を突っ込んで鍵を外すと、カーテンを開けるのももどかしく部屋に飛び込んだ。 そこでラブが見たものは、姿見の前でくぐもった叫びを上げるソレワターセと、せつなのベッドに意識なく横たわる、行方不明だったあゆみの姿だった。 「おかあさん!!」 ラブが真っ先にあゆみに駆け寄る。無事は確認できたものの、状況が理解できない。 呆然とした表情でそこに立つ化け物を見上げ、ハッとした。 「どうしてソレワターセが……せつなは? せつなはどこっ!?」 「ラ……ブ……」 「なんで? どうしてソレワターセが、あたしの名前を呼ぶの?」 混乱したラブが、頭の働かないまま、うわ言のように問いかける。 それに答えたのは、目の前の化け物ではなくて、一緒に付いて来ていたシフォンだった。 「ラァ~ブ、せつな」 シフォンがせつなと、そう呼んだ。小さな腕が指す、その先に居るのは―― 「嘘……。もしかして、せつな……なの?」 ラブの声を聞いて、ソレワターセは我に返ったようだった。 ソレワターセは、まるで自分の姿を隠そうとするかのように、枝を前に突き出して身体を覆った。 その姿は、子供がイヤイヤをするかのように弱々しくて……。低い唸り声も、悲鳴のようにしか聞こえなくて……。 ラブを恐れるかのように一歩つづ後退し、やがて壁に突き当たったソレワターセは、さっきラブが開け放した窓からベランダへと飛び出した。 「待って! せつな。せつな、なんだよね?」 「オオオォォ!」 その声に応えるかのように、ソレワターセがスルスルと蔦をラブの方に伸ばす。蔦はラブをかすめて、その背後に居たシフォンを拘束した。そして目にもとまらぬ速さで、手すりを越えて外へと躍り出た。 「しまった……シフォン!!」 ラブが慌てて追いかけようとするが、ここは二階だ。 転がり落ちるように階段を降りて庭に出た時には、もうソレワターセの姿も、シフォンの姿も、どこにも見えなくなっていた。 「せつな……。シフォン……。どうして――」 シンと静まり返った薄暗がりの中、裸足のラブが膝を付いて崩れ落ちた。 「どうしてよぉ――っ!!」 冷たい晩秋の色なき風が、悲しみに暮れる二人の少女の間を吹き抜ける。 長い――長い夜が始まろうとしていた。 幸せの赤い翼――翼の種子のパッション(せつなとイース・占い館の攻防)へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/315.html
「貴方が・・・・・・イースだったのね」 その言葉を、美希は確信を持って言い放った。 直後に自分に待ち受ける、過酷な運命に気付かぬままに。 Eas of Evanescence III 最近、親友二人の様子がおかしい。そのことが、美希の悩みだ。 桃園ラブと、山吹祈里。三人は幼馴染で、いつも仲良しだった。 もちろん、世の多くの友人達の例に漏れず、喧嘩をすることもあれば、嫌いと言い合ったこともある。が、 これもよくあることだが、いつの間にか仲直りをするのが日常だった。 それが、今は。 「どうしたの? 何かあった?」 ラブと祈里、二人の会話に割り込むようにして、美希はそう問いかける。彼女達は、キョトンとした顔で こちらを見てきて。 「へ? 何が?」 「別に、何もないよ?」 示し合わせたように首を傾げる幼馴染達に、美希は、そう、と生返事を返すだけ。 だが心の中では、ウソツキ、と呟く。 確かに彼女達はいつもと変わらず、朗らかに言葉を交わしている。ラブは元気な笑顔だし、祈里もおっとりと 微笑んでいる。 けれど。 何年、幼馴染やってると思ってるのよ。心の中で溜息を付きながら、ラブを、次に祈里の顔を見つめる。 美希には、わかる。二人が心ここにあらずといった体で、互いを強く意識し合っていることが。言葉の裏側、 奥深くで探り合っている。相手の思いを、考えを知ろうとしている。 二人にそんな態度は似合わないと美希は思う。聞きたいことがあれば聞く、遠慮なんてせずに。それが あたし達だった筈なのに。 一体、何が二人をこんな風にさせたのか。 その疑問は、すぐに解けることになる。 「お待たせ、皆」 「あ、せつな!!」 「せつなちゃん!!」 聞こえてきた声に、弾けるように立ち上がるラブと祈里。その姿に驚きと戸惑いを覚えながら、美希は声の 方へと顔を向けた。 そこにいたのは。 「こんにちは、ラブ、祈里、美希」 白いつば広の帽子に、白のワンピースに身を包んだ少女。 東せつな、だった。 おかしい、と美希は感じる。 目の前の光景は、おかしい、と。 誰かにもし説明するとしたら、彼女は言葉に窮するだろう。根拠も何も無いのだから。 けれど、美希の心の警鐘は鳴りっぱなしだ。何かが、違う。いつもと違う。 「それでね、この前ね――――」 「へぇ、そうなんだ」 ラブは左隣に座るせつなに、満面の笑みを浮かべながら、ラブと美希と祈里、三人で出かけた時の話を している。それを受けて彼女は、軽く頷いて。 「そうそう、それで皆でね――――」 「すごく楽しそうね」 ラブの話を補足するように、祈里は右隣のせつなに話しかける。そちらに顔を向けた彼女は、小さく微笑んで。 「あの時は、ホント、楽しかったよねっ!!」 「うん、すっごく楽しかった」 「羨ましい。私も行ければ良かったんだけど」 「じゃあ、次はせつなも一緒に行こ? きっと、楽しいよ」 「うんうん。わたし、信じてる!!」 せつなを挟んで盛り上がる幼馴染、二人。 微笑ましく見える筈の姿が、何故か美希の心をざわめかせる。 いがみ合っている、というわけではない。 だが、ラブは祈里がせつなに向ける視線を気にしていたし、逆に祈里はラブの言葉にせつながどんな表情を 見せているかを窺っていた。 何があったのかは、わからない。だが、彼女達が何を気にしているのかは、わかった。 美希はコーヒーカップで表情を隠しながら、真正面に座る少女の顔を見つめる。 いや、睨む。 東せつな。彼女の存在が、二人に、そして美希の心に影を落としていることを悟って。 その視線を、せつなは受け止めて。 「どうしたの? 美希」 艶然と笑って見せる。 いっそこの場で。思い、糾弾の為に口を開こうとした美希だったが、その瞬間に気付く。両隣の親友が、 せつなに笑顔を向けられている自分を、まるで羨望するかのように見ていることに。 「いいえ。何でもないわ」 上等じゃない。心の中で呟いて、彼女は笑顔を見せた。 どんな手段を使ったか知らないけれど――――二人を取り戻して見せる。そう胸に誓いながら。 そう誓った自分がどれほど甘かったか、すぐに美希は知ることになったのだけれど。 「次の方、どうぞ」 今日、何人目かの客が帰っていくのを見届けて、せつなはカーテンの向こうに声をかける。 よく当たる占い師がいる、という噂が広まってきたせいか、せつなは最近、館を訪れる客が増えてきて いる気がしていた。いや、事実、増えているのだろう。普段は表に出ることの少ないサウラーですら、 今日は占い師として働いている。ウエスターも、当然。 他愛もない。先程の客の嬉しそうな顔を思い出して、せつなは冷笑する。話を聞いてやって、適当なことを 言えば、満足してしまう。幸せになれる、と一言付け足せば、誰もが救われたような顔になる。 だから幸せなんて言葉は嫌いなんだ。一転、心の中で彼女は吐き捨てる。そのたった一言で、何もかもが うまくいくかのような気にさせてしまうから。 幸せなんて、無い。どこにも無い。手に入らない。 その瞬間、彼女の脳裏を走ったのは、東せつなを親友だと、大好きだという一人の少女の面影。 『幸せ、ゲットだよ』 口癖なのか、何度、その言葉が彼女の口から出ただろう。その度に、虫唾が走る。その能天気な笑顔が、 単純な思考が、せつなを苛立たせる。 『大好きだよ』 ベッドの中で何度も歓喜の声を上げる彼女に、しがみつかれ、潤んだ瞳で言われたことがある。多分その 瞬間、彼女は幸せを感じていた筈だ。 けれど。 せつなは暗く、笑う。 もし、自分の親友が同じように、私に抱かれていることを知ったら――――貴方はどう思うのかしら。 種はすでに、蒔き始めている。 祈里はすでに、ラブとせつなのことを知っている。知っていてなお、彼女と体を重ねることを拒まない。 表向きは、せつなに脅されているからだ。最初は、盗み見ていたことを。その後は、抱かれたことをラブに 言われたくなければ、と。 本当であれば、抱いたのはせつなだから、祈里が心苦しく思う必要は無い。だが、せつなは祈里が自分から ラブに二人の関係を言うことは無いと踏んでいた。祈里にとっても、ラブは特別な存在だ。その彼女の 愛する人と自分が関係を持ったなどと知られれば、ラブに軽蔑されるかもしれない。それに祈里が耐えられる筈が 無い、と。 何より。せつなはほくそ笑む。 最近の祈里は、房事に積極的だ。一度覚えてしまった快感が忘れられなくなってしまったのだろう。はっきりと 口に出しては言わないが、二人きりになった時に、誘うような素振りを見せてくる。悪いことと知りつつ、 自分に言い訳をしながら、せつなと肌を重ねては舞い上がっている。無論そこには、せつながそう思うように 仕向けたということもあるのだけれ ど。 ラブは、せつなと祈里の関係を知らない――――ことになっている。だがせつなは最近、ラブと会う回数を 減らしていた。会っても、祈里の話題をよく出すようにしていた。 「最近、せつな、祈里と仲が良いんだね」 その言葉が彼女の口から出た時には、心の中で喝采を上げたものだった。口に出しては、ラブとほどじゃ ないわ、と言っただけだったけれど。 全ては、それとなく、気付かれないように進めていた。少女達の心に、少しずつ毒を注ぎ込む。互いに互いが 猜疑心を抱くようになれば、プリキュアなど。 不意に。 ズキンと胸が痛んだ。 思わず、小さく呻き声を漏らす。占い師のローブの上から、自分の胸を手で抑えて。 ――――ラブの顔が、浮かんだ。いつか、そう遠くない未来に、自分の正体を彼女に明かす日が来るだろう。 その時、彼女が見せるであろう悲嘆と絶望の表情を思い浮かべたら――――胸が。 違う、これは歓喜だ。せつなは自分に言い聞かせる。絶望と不幸こそ、私が望むもの。きっとその瞬間に、 私は笑顔で彼女を見下していることだろう。全てを失い、心を千切られたキュアピーチ――――桃園ラブを見て、 暗い喜びに身を震わせているだろう。 だから、そう。これは歓喜なのだ。彼女が泣き叫ぶ姿を想像して、苦しいと思っているなんてことは、 決して無い。決して。 彼女は、目をそらす。 ラブを抱いている時に、どうしようもなく満たされていることから。 祈里を抱いている時に、ラブを思い出し、虚脱感を覚えることがあることから。 そんな、自分の心から。 目をそらす。 「こんにちは、せつな」 目を閉じてうなだれていた彼女は、その声――――部屋に入ってきた次の客にかけられた声に、はっと顔を 上げる。そこにいたのは。 ただ一人、彼女が毒牙にかけていないプリキュア。その鋭さと、自分へ向ける疑いの視線から、慎重に 接してきた少女。 蒼乃美希。 いつものように青い服を身にまとう彼女が、いつものように険しい視線で自分を見つめてきている。そのことに、 少なからず、驚きを覚える。 が。 すぐに、立ち直る。考える。 こんな絶好の好機、逃すわけにはいかない。 絶対に。 5-439へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1034.html
【8月1日】 『プリキュアの誓い』 キュアパッション「真っ赤なハートは幸せの証! 熟れたて・フレッシュ・キュアパッション!!」 美希 「そう言えば、アタシたちは印なのにパッションは証なのね?」 祈里 「印とは区別すること。証とは誓約することね」 ラブ 「そっか……。あたしたちよりも、より強い決意の表れなんだね」 せつな「意識して名乗ったわけじゃないのよ。でも、精一杯がんばるわ!」 【8月2日】 『トリニティの夏休み』 ミユキ「8月は海に、花火に、盆踊りに、楽しいことが沢山ね!」 美希 「でも、ミユキさんてそんなにあちこち行く時間あるんですか?」 ミユキ「海でダンス合宿、花火の見えるダンス会場、盆踊りのゲスト出演。予定はバッチリよ!」 祈里 「やっぱり、ちゃんと遊ぶ時間はないんですね」 ラブ 「あたしたちは遊んでばっかなのに……」 せつな「自覚はあるのね……」 ミユキ「平気よ! 時間は短くても、ファンのみんなと一緒に楽しめるんだから」 【8月3日】 『お化けも楽じゃない』 祈里 「今日はお化け屋敷に行くの。うふふっ、お化けってなんだか可愛いわ」 タルト「ふ~ん、パインはんにはお化けも動物みたいに見えるんかいな?」 美希 「動物はカワイイけど、お化けはパス!」 ラブ 「かわいいかどうかより、わっ! って出てくるだけで恐いってば」 せつな「突然背後に出てこられたら、確かに身構えちゃうわね」 祈里 「攻撃しちゃダメよ、せつなちゃん……」 【8月4日】 『寝苦しいから朝は弱くて』 ラブ 「今日は、せつなと一緒に公園でラジオ体操をしたんだ!」 せつな「ダンスもそうだけど、みんなと一緒に体を動かすのは楽しいわ」 ラブ 「うん! あたしもすっごく楽しかったよ!」 せつな「それじゃ明日からはすんなり起きれそうね」 ラブ 「たはは、それは自信ないかも……」 せつな「全くもう、まさにラブのためにあるような企画ね」 【8月5日】 『今でもスタイル凄いんです』 美希「今日はみんなでプールに行くの。とっても楽しみだわ」 レミ「あら、美希ちゃん。今日はいつもの水着じゃないのね。勝負水着?」 美希「勝負って……。普通におしゃれなだけよ。人聞きの悪いこと言わないでってば」 レミ「楽しそうね。ママも付いていっちゃおうかしら?」 美希「確かに注目集めそうだけど、アタシが恥ずかしいからやめて……」 【8月6日】 『型にはまらない男』 ウエスター「スイカ割りなら俺にまかせろ! もちろん、食べるのも俺にまかせろ!」 タルト 「相変わらず自由奔放やなあ。あれが管理国家で生まれ育った人間かいな……」 サウラー 「僕とイースは選ばれたが、ウエスターは放り出されたのかもしれないね……」 タルト 「やっかいばらいかいな、迷惑なこっちゃなあ」 ウエスター「こっちか! こっちにスイカの匂いがするぞ! クンクン」 タルト 「気のせいや、スイカはあっちや! すんません、もう言わんから許して~な」 【8月7日】 『ラブとせつなの涼み旅行』 せつな「今日は家族でドライブなの。涼しい高原に行くんですって」 ラブ 「わはっ! せ~つな、こっちに小川があるよ~」 せつな「冷たい……とっても気持ちいいわ」 圭太郎「この先は滝になってるんだ、行ってみるかい?」 ラ・せ『うん!』 あゆみ「滝というより湧き水ね。音を聞いてるだけで涼しくなってくるわね」 せつな「なんだか不思議ね」 ラブ 「どうしたの?」 せつな「暑かったり、寒かったり。小さな不幸のはずなのに、大きな幸せに変えられるのね」 【8月8日】 『外しました』 せつな「海ってホント広いのねぇー」 ラブ 「うん。さっ、思いっきり泳いじゃおー!」 せつな「そうだ! せっかくだから競争しましょう。先に向こう岸にたどり着いた方が勝ちね」 ラブ 「あ~、えっとね。海ってすっごく広くて、とてもそんなに泳げないというか……」 せつな(冗談のつもりだったんだけど、難しいものね……) 【8月9日】 『トラウマ』 タルト「毎日暑うてかなわんなぁ~。カキ氷おかわり!」 ラブ 「タルト、食べ過ぎたらまたおなかが痛くなっちゃうよ」 タルト「平気やて、これでも気をつけてゆっくり食べてるんや」 せつな「後で泣きついても知らないから」 タルト「おおっ! 頭がキーンと鳴りおる……」 祈里 「アイスクリーム頭痛ね。人間の口の中は神経が多すぎて、冷たさに脳が混乱するからなんだって」 美希 「身体はフェレットで味覚は人間なのね。本当にどんな体してるのかしら……」 祈里 「お腹が痛くなったら、お父さんにお願いして色々調べてあげるね」 タルト「ゾォ~~。もうごちそうさまやで!」 【8月10日】 『逆転の発想』 カオルちゃん「おじさん、夏に合わせて冷え冷えドーナツを作ったよ」 ラブ 「わぁ~、ふわっふわでもっちもち。冷えても固くならないんだね!」 美希 「ハート型の穴に生クリームとフルーツか~。すっかりデザートよね」 祈里 「揚げ物を冷やして食べるなんて、なんだか不思議」 せつな「弱点すら長所に変えられる。このドーナツを食べたら、何でもできるような気がしてくるわね」 新-286へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/413.html
「せつな…もう寝ちゃった?」 一体わたし、どうしちゃったの?初めてのラブとの旅行(修学旅行だけど)だっていうのに…。 「ねぇ…せつな」 だいたいラブもラブよ。大輔だか何だか知らないけど、いちゃいちゃしちゃって…。 「せつなったら!」 「なによ!ラブのバカ!」 「…っ!いきなりバカ呼ばわりはないんじゃないの」 「そんなつもりじゃ…」 ラブはため息をついて布団から起き上がる。 「なんか今日のせつな…やっぱり変だよ。どうしたのかな?」 変にさせてるのはラブよ…。 「わわっ!何で泣くの!?あたし何かした?」 わたしは首を振る。判ってる。ラブが悪いじゃない。悪いのは…わたし。 「せつな…泣いてちゃわかんないよ」 「だって…自分が嫌になったんだもの」 「どこが?あたしはせつなの全部が好き」 「全部だなんて…大袈裟ね」 「大袈裟なんかじゃないよ!」 そう言って、ラブはわたしを抱きしめる。 「だって…初めて会った時からずっと、色んなせつなを見てきたんだよ?」 …そうだった。ラブはイースだった頃のわたしを愛してくれた、たったひとりの人。 「…バカって言ってごめんなさい」 「もういいよ…で、何を怒ってたの?」 「言えないわ…恥ずかしくて」 「いいから!あたし達の間で隠し事はナシだよ」 「だって…ラブが大輔くんとばかり…その…仲良くしてるから」 「なんだ、そんなことか!良かった~あたしてっきり、夕飯のせつなのラフテーを横取りしたこと怒ってるのかと…」 ラブはぎゅうぎゅう抱きしめてくる。 「ちょっとラブ!苦しいわ!」 「えへへ~だって嬉しいんだもーん。せつながヤキモチ妬いてくれて」 ヤキモチ…これがそうなんだ。本で読んで知識はあったけれど、自分が嫉妬しているなんて気づかなかった。 「ねぇラブ…」 「わかってる」 くちびるに触れる柔らかなラブの感触。ずいぶん慣れたはずなのに、いまだに胸が高鳴る。 「今日はまだしてなかったからさ。えへへ」 「…ありがと」 「けど、ヤキモチ妬くせつなも可愛いよね」 「次はラブが妬く番よ」 「え?」 「ふふっ…冗談よ」 本当は、半分本気だった。いつか…ヤキモチを妬いてもらえるくらい、好きにさせてみせるんだから。 今度はわたしからくちづける。確かめ合うように、深くゆっくりと。 沖縄の熱い夜は、まだまだ始まったばかり。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/352.html
第21話 涙 「……なに………やってんの…?」 祈里はベッドに仰向けたまま、ラブはその下に尻餅を付いたまま嵐の後の凪のような 気だるさに身を任せていた時だった。 突然聞こえた呆然とした声に祈里とラブは飛び上がる。 ドアを開けて立ち尽くしているもう一人の幼馴染み。美希は信じられない物を見た衝撃に端正な顔を引きつらせていた。 思わず跳ね起きた祈里の乱れた胸元に美希の目が見開かれる。 ラブは中途半端に腰を浮かせ、その視線は慌ただしく宙を泳ぐ。 とっさに説得力のある言い訳が出る筈もなく二人は酸欠の金魚よろしく青ざめて口をパクパクさせるだけだった。 「何、やってんのよ…!」 美希のまなじりがつり上がり、握りしめた拳が震える。ゆらりと揺らめく焔が細い体を包んでいる。 「やっ…!違う、違うんだよ!」 「美希ちゃん、わたしが悪いのっ!ラブちゃんは何も…っ!」 「未遂…って言うか!まだ最後まではって言うか…その…」 「ちょっ、ラブちゃん!何言ってるの?!」 「いや、だからね!結局何もおかしな事にはね…」 「……だからっ!何がよっ!!」 震える美希の声にラブと祈里は思わず目を閉じ首を竦める。 叱られる。怒られる。ひょっとしたらひっぱたかれるか拳骨を落とされるか。 じ…っと身を固くし、来るべき衝撃に備えていた二人。 しかし暫くしても覚悟していた痛みはやって来ない。 「………もう…やだ………」 耳を通り抜けた弱々しい声。 訝しさを感じたラブと祈里恐る恐る目を開ける。 「…もお…やだ…。嫌よ。何なの……?何なのよ…これは…。ヤダ…ヤダよ。もうイヤ!……っ!」 ぺたんと座り込み、肩を落とす美希の姿。 さっきまでつり上がっていた目尻が下がり、瞼に膨れた雫が大粒の涙となって零れ落ちる。 両手の甲を瞼を当て、シクシクと泣き始める。 激昂するでも、怒りを抑えるでも無く、体の芯を砕かれてしまったように。 ひっくひっくと胸を上下させ、苛められた幼子のようなか細い声で泣きじゃくる美希。 長い付き合いの中、美希の泣き顔を見るのは初めてではない。 しかし、これは…… ラブと祈里は言葉が出ない。 心を折ってへたり込んでしまった美希なんて見た事が無かったから。 そして美希にそんな姿を晒させてしまったのは自分達の考え無しな行動なのだ。 怒鳴られて叩き倒された方が遥かにマシだった。 「…美希……」 「…美希ちゃん………」 声も掛けられず、触れる事も出来ずにおろおろと狼狽えるしかなかった二人はやっとの思いで名前を呼ぶ。 ピクリと美希の肩の震えが止まり、緩んでいた唇がきゅっと引き締まった。 涙を拭い、長く息をつく美希をただ身動ぎもせずに待っているしかなかった。 「………帰る。」 抑揚の無い口調でぼそっと呟くと美希はそのまま部屋を出て行こうとした。 「あっ…!待って、待ってよ美希たんっ、話聞いて!それに…せつなにはこの事は…」 言わないで欲しい。 そう懇願しながら腕を掴んで来たラブを美希は汚ない物に触れたかのように邪険に振り払った。 その瞬間の美希の瞳に宿った色。 幼馴染みの視線に滲む隠す気すらない冷えた侮蔑。 ラブはその視線に心臓を射抜かれ、よろめきながら後退る。 「せつなに言うな、ですって?馬鹿にしないでくれる?」 それに何を話すって言うのよ。 吐き捨てるように美希は言葉を投げつける。 「それはこっちの台詞よ。あんた達こそ分かってるの?言える訳ないじゃない!」 「…それは、そうだよ。言えないよ、こんなの。」 「ごめんなさい、美希ちゃん。わたし、これ以上せつなちゃんを傷付けたりは…」 項垂れる二人を見る美希の瞳はますます温度を下げて行った。 形良い唇を皮肉な角度に捻り、視線と同じくらい冷たい声を放つ。 「どうだかね。分かりゃしないわよ。あんた達にまともな判断力なんて残ってんの?」 ついさっきまでの痛々しい様子をかなぐり捨てた美希は女王の傲慢さを覗かせながら 棘の絡まる言葉を紡ぐ。 「いいじゃない。全部ぶちまけなさいよ。せつななら赦してくれるでしょ?」 「美希たん…っ!」 「どうせ黙ってなんかいられないわよ。罪悪感に耐えられずに。 どうにもならない事を我慢する気なんて最初からないんでしょ?」 ふん。と、顎を上げ祈里の姿をねめつける。 慌ててはだけた襟元を掻き合わせる祈里に軽く舌打ちさえしてみせた。 「あんた達はもう分かってんのよ。分かって甘えてる。せつなには何をしても良いと思ってんのよ。」 「そんな、美希ちゃん…。」 「違う!そんな事って…っ!」 「違わないわよ。」 せつなはどんなに痛め付けられても逃げなかった。 どんなに手酷く裏切っても赦してくれた。 だからせつなには何をしても大丈夫。せつなは四人でいる事を望んでる。 だから… 「せつなは赦してくれるわよ。自分が傷付くのには呆れるくらい無頓着なんだもの。」 でもアタシは許さないから。 「これ以上せつなに荷物を背負わせるような真似、しないわよね。」 あんた達が何考えてこんな真似してるかなんて聞きたくもないわ。 ただ、秘密にするならそれは墓場まで持って行きなさい。 お願いだからもうこれ以上失望させないで。 そんな呟きをため息と共に美希は置いて言った。 ドアが閉まり、階段を降りて行く音がする。 ラブと祈里の胸には美希の瞳と声が深く食い込み、爪を立てている。 それは血管を通して全身に巡り、体の内側から自分達の愚かさを責め立てているのを感じた。 「………どうしよう……わたし、どうしたら……」 祈里は唇まで色を無くし全身を戦慄かせていた。ラブは頭を掻き毟り、血の滲むほど爪を立てる。 「どうしようもないね……あたし達。」 「……うん…。」 「馬鹿過ぎる。あり得ないくらい、馬鹿……。」 「…ラブちゃんの所為じゃない…。」 「あああ、もうっ…!」 ラブは床に突っ伏し、額を擦り付ける。どうしてこんなに頭が悪いのか。 どうしようもない。馬鹿。あり得ない。そんな軽い言葉しか出て来ない。 違うのだ。美希に見せてしまった光景はそんな紙のように薄っぺらい言葉で表すべきじゃない。 美希のか細い泣き声が耳にこびり付いている。瞼の裏に涙を溜めた瞳がちらつく。 自分達の行為が食い荒らした美希の心。 ラブと祈里の居場所は美希の居場所でもある。 自分達の感情だけでめちゃめちゃに踏み荒らしていい訳があるはずない。 美希がどれほどその居場所を愛し、守ろうとしていたか。 ずっと見て来たのに。 美希が必死に繋ぎ止めていてくれてたのに。 四人がバラバラにならないように。 祈里が輪の中に居続けられるように。 ラブとせつなが安心して手を繋いでいられるように。 それなのに。 目の前に突き付けられるまで自覚していなかった。 美希を軽んじていた事に。 第22話 胸から零れた罪の破片へ続く
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/700.html
ラビリンス、せつなの自室。 せつなは写真を握り締めて、ベットで泣いていた。 大切にしていた思い出まで汚してしまった。大切な人を傷つけてしまった。 後悔が頭の中を渦巻く。 「めそめそするくらいなら、言わなきゃいいのにね」 開きっ放しだった扉から美希が入ってくる。慌てて繕おうとするせつな。 「ノックもしないのは謝らないわよ。アタシは喧嘩しにきたんだから」 「もう……来ないでって言ったはずよ、美希」 抗議するせつなを鋭い眼光で退かせる。一歩一歩距離を詰めて歩み寄る。せつなは威圧される ように下がった。 「ラビリンスの人たちを笑顔と幸せでいっぱいにする。それが夢だと聞いたから行かせたのよ。 今のせつなは何? 夢を、好きなことを追いかけている者の目じゃないわ」 「夢は……楽しいことばかりじゃないのよ。上手く行ってる美希にはわからないわっ」 精一杯頑張ってきた。今までも、今だって。だけど……その先の言葉を飲み込んだ。 「だからと言って会いに来てくれた親友に八つ当たり? いい身分ね」 ラブの驚愕の表情が思い出された。また胸を抉られる。観念してベッドに座り込んだ。 「もう……会わないつもりだったというのは本当よ。会えばきっと、弱い私が出てきてしまう。 ラブに甘えてしまうかもしれない。泣きついてしまうかもしれない。 帰りたくなってしまうかもしれない」 後悔するかのように、ぽつぽつと、力なく話すせつな。その姿がとても寂しそうで、小さく見 えた。 美希はハッとした。また、ラブのことばかり心配していて、せつなの身になってやれなかった のかもしれない。 理想と現実の壁。休む暇も無いまま、遅々として進まない復興と意識改革。 何も無い部屋。愛してくれる人の居ない生活。まだ14歳、僅か半年しか人の温かさに触れて こなかった少女の悲しい人生。 「寂しいならそう言えばいいじゃない。甘えればいいじゃない、泣きつけばいいじゃない。 どうしてそんなに自分を追い詰める必要があるの?」 美希にだけは言われたくないわ。そう言って少しだけ笑って続ける。 「私ね、四ツ葉町を発つ前に一つだけ決めていたことがあるの。それは自分を甘やかさない事。 何か理由があれば戻ることもあるかもしれない。だけど、寂しいとか辛いとか、そんな自分勝 手な理由でだけは決して戻らないようにしようって。 もし、帰ることがあるなら、夢を果たしてから胸を張って帰ろうって」 やっぱり、そう。 せつなはいつもそうだ。自分の夢や幸せは、周りをそれで満たしてから得ようとする。 いつだって自分のことは後回し。メビウスのため、アタシたちのため、今はラビリンスのため。 欠片ほどしか持っていない幸せを、自由を、全て他人のために投げ出してしまう。 ラブとブッキーは、それをせつなが自分に架した十字架だと、罪の意識だと思ってる。 間違ってはいない、けど、それだけじゃない。アタシにはわかる。それがせつなの優しさなん だってこと。 「せつな、無理よ。あなたではどんなに頑張っても、ラビリンスの人たちを幸せにすることは 出来ないわ」 キッとせつなが美希を睨みつける。それだけは、それだけは認められない。 「ならば聞くわ。幸せって何? 夢って何? 笑顔は何から生まれるの?あなたは本当にわか ってるの?」 せつなは悔しそうに、唇を噛みしめながら美希を見つめる。言い返せなくても、視線は決して 逸らさないと。 「幸せはね、自分が一番愛している人たちを大切にすることから生まれるの。夢はね、自分自 身を大切にしようとする気持ちから生まれるの。笑顔はね、その両方から生まれるのよ」 心をこめて、やさしく、そして力強く語る。想いがあふれ出て涙声になりながら美希は続ける。 「自分が一番愛している人たちと交流を断ち、自分自身を傷つけて尽くそうとするあなたは、 自分が笑うことも他人を笑顔にすることも、決して出来はしないわ」 せつなは大きく目を開いて、身じろぎもせずに美希の言葉を聞いていた。 「ラビリンスを幸せに導こうとする気持ちは立派よ。だけど、せつなが一番愛してる人は誰? 一番幸せになって欲しいと願ってる人は誰?せつなが一番幸せを感じる瞬間は何をしている時 なの?」 それは親友。それは家族。それは恩人。それは最愛の人。この世界には居ない人。だからああ するしかなかった。 「私は、私はただ……みんなに幸せになって欲しくて。私と同じ思いを誰にもさせたくなくて ……」 美希はせつなをそっと抱き寄せた。せつなはすがるようにして号泣する。 「まずは、せつな。あなた自身が幸せになりなさい。そして、一番愛してる人を幸せにしてあ げなさい。あなたが心の底から笑顔になれるようになったら、その幸せはラビリンスの人たち にもきっと伝わるから」 すっかり日も沈み、ようやくラブは顔を上げた。ブッキーがずっと隣で背中を撫でてあげてい た。 「ごめん、ブッキー、ありがとう。あたし、もう帰らなきゃ」 フラフラと立って、ようやく美希とタルトとシフォンが居ないことに気がついた。 「ブッキー、美希たんとタルトとシフォンはどこ?」 「わたしも聞いてないけど、何をしにいったのかはわかるわ」 どういうこと? とラブが聞き返そうとしたとき、目の前が光につつまれた。 「ラブ」 「え、え、せ……せつなっ?」 せつなと美希、そして笑顔のシフォンとVサインを決めているタルトが居た。 「ラブ……ラブ、ラブ、ラブ、ラブ」 体を小さくして震えながらラブの名を呼ぶ。何度も何度もかみ締めるように。 「ごめっ……ごめん……ごめっ、ごめんなさい」 溢れる涙、それは悲しみのものではなくて、素直になれた気持ちがこぼれ出たもの。 「会いたかったの。寂しかったの。辛かったの。苦しかったの。甘えたかったの。ずっと、ず っと……」 「我慢してたんだね、せつな。あたしもだよ」 今度こそ、しっかりとせつなを抱きしめる。もう離さない。自分に嘘もつかない。好きなんだ もの。 ずっと一緒に居たいんだもの。 二人の熱く長い抱擁を優しく見つめる美希とブッキー。 「美希ちゃん、おつかれさま。美希ちゃんならきっとできるって、わたし信じてた」 「当然でしょ、アタシ、完璧だもの」 パン! 美希とブッキーがハイタッチ。 「せつな、後どのくらい時間あるの? おとうさんとおかあさんに会う時間ありそう?」 「うん、無理を言って今日一日休みをもらったから。明日の朝までは大丈夫よ」 「良かったわね、ラブ」 「よかったね、せつなちゃん」 せつなは約束した。時間が取れたらなるべく会いに来ること。そして、いつかラビリンスに幸 せが満ちたら、その時はきっと帰ってくること。 美希とブッキーも顔を寄せ合って笑いながら祝福した。 「でも、ずるいな。アタシたちだってせつなやシフォンやタルトと過ごしたかったなあ」 「じゃ、今晩みんなで一緒に泊まっていく?」 ラブが目を輝かせながら提案した。 「そうしたいけど、遠慮しておくわ。おじさんとおばさんが可哀想でしょ」 「うん、わたしもそう思う」 続けて美希とブッキーがハモる。その代わり――「「今から四人で一曲踊りましょう」」 「大会で優勝した時の曲行くわよ、せつな、鈍ってないでしょうね?」 「言ったわね、その言葉、あななたちにそのままお返しするわ」 「よ~し、じゃあ、久しぶりに“クローバー”行くよ!」 「うん、がんばろう」 「声援はまかせといてや」 「キュアキュア」 ――Sun! Sun! 太陽の下 みんなが集まれば~♪―― ありがとう、美希たん、ブッキー、そして、せつな。 あたしたちはずっと一緒だよ。四人でクローバーなんだ。 だから、必ず、一緒に、みんなで幸せGETだよ!
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/808.html
負の感情はコントロール出来る。 怒り、憎しみ、悲しみ、怯え。囚われず、外に昇華させる。目の前の倒すべき相手に。 ずっと、そうやって生きてきた。 痛みに怯えていては戦えない。恐怖に囚われていては判断を誤る。 心と体を切り離す訓練は出来ている。 体は戦う為の道具。心はそれを動かす為のもの。感情なんていらない。 そうでなければ、誰かを蹴落とすことすら出来なくなってしまうから。 (私は、弱くなってしまったのかしら………) 闇の中から伸びる手。 握り潰せそうな柔らかな手のひら。軽く捻り上げただけで折れてしまいそうな華奢な腕。 簡単に振り払えるはずの細く白い体が鉛のように重くのし掛かる。 体の内側を軟体動物が這い回り、食い荒らされるような感覚。 おぞましさに全身を総毛立たせるはずが、喉から漏れる息は確かな熱を帯びていた。 哀願の嗚咽は媚びるように甘ったるく響き、蹂躙されているはずの体は 悦びの雫を滴らせる。 (早く…終わって……) 意識を体から切り離し、外側から観察する。 冷めた素振りを見せては駄目。意地になって責めて来るから。 ある程度昂って見せなくてはいつまで経っても解放して貰えない。 もうそろそろ…達してしまった方がいいだろうか…。余りに早いとまた繰り返される。 あと少し、我慢すれば………。 「………せ…な、…せつな、せつな…。」 ビクリと体が跳ねる。 肩を軽く揺すられ、頬を撫でられていた。 暗い部屋、見馴れた天井、そして、覗き込んでいる愛しい顔。 切羽詰まったように張り詰めた声と裏腹に、見上げたラブの顔は穏やかに微笑んでいた。 (……………夢を……) せつなは眠気を覚ます振りで手の甲で瞼を擦る。 良かった。涙は出ていない。 「ゴメン、起こしちゃって。何だか眠れなくってさ。」 一緒に寝てもいい? そう、ラブはせつなのベッドに潜り込む。 うなされてたよ。 悪い夢を見たの? ラブは一言も聞かない。 せつなが話したくないのを知ってるから。 (ごめんね…、ラブ…。) ずっと添い寝して貰っていたのを少し前からちゃんと別々の部屋で眠るようにした。 まだ悪夢にうなされるせつなを心配したラブは躊躇ったが、 心細い時はちゃんと言うから。何でもちゃんと話すから。 そう言って何とか納得してもらった。 ラブはまるで雛を守る親鳥のようにせつなを包み込んでくれる。 その羽根は温かく、優しく、何時までもうっとりと身を任せていたくなる。 愛され、守られるのは何と心地好いのだろう。 でも、それだけではいけない。そう思ったから。 並んで歩きたい。 手を引かれ、後から付いていくのではなく。 並んで、手を繋いで、お互いの目線をちゃんと合わせて。 柔らかな胸で微睡む至福よりも、自分の足で立って見つめ合いたいから。 「ごめんね、ラブ。」 「…何が?」 「私、我が儘ね。」 「リアクションに困るな…。」 「どして?」 「だって…はい、とも、いいえとも答えにくい。」 髪を梳く指が耳を掠め、せつなはくすぐったさに忍び笑いを漏らす。 それに気付いたラブが、首筋、背中、脇腹、と摩る振りでくすぐっていく。 小さく身を捩りながらのじゃれ合い。 せつなの肌から不快に粟立っていた感覚が拭われていく。 寝室を別にしてもあまり変わらなかったのかも知れない。 だってラブはいつもせつなが助けを求める前に手を差し伸べてくれるから。 せつなに関しては妙に嗅覚が働くのか、虫が知らせるのか。 どんな悪夢を見ても、一人怯えながら朝を迎えた事は一度も無かった。 「ありがとう、ラブ。」 「だから、またリアクションに困るってば。」 「どういたしまして、で、いいのよ。」 「何だかなあ…。」 あんなのは何でもない事。 死んだ方がまし、そう思う程の苦痛を受けた事だってある。 それに、もっと手酷い裏切りにあったではないか。 全身全霊を捧げていた相手に切り捨てられ、命を奪われた。 塵芥程の重みもなかった命。誰にも顧みられる事のなかった過去の自分。 それに比べれば……… 愛する人がいる。 温かい家族がいる。 笑い合える友人がいる。 私は、幸せ…。 クスリ…と、せつなは笑う。 分かっている。 過去を引き合いに出して比べる事に意味なんてない。 もっと酷い目にあった、だからこれくらい我慢出来る。 あれに比べたら大した事ではない。 こう言う考えは危険だ。 危険で、不健康で、心身を蝕む。 大きくても小さくても傷は傷。 大怪我でも早急に的確な処置を施せば後遺症もそれだけ軽く済む。 軽症だと侮って手当てを誤れば、化膿してそれが命取りになる事だってある。 身も心も弄ばれ、深く傷付いた。 その自覚はある。祈里の為にその事で自分を誤魔化す気はない。 ただ祈里の謝罪を受け入れ、許す、と言う事も出来る。 でもそれは…何もかも水に流し、受け入れる事はラブに対する裏切りに思えた。 ラブは、深く深く愛してくれている。 溺れてしまいたくなるほどに。 せつなの中にある「愛している」、と言う想い。 ラブに対してだけ感じる、胸が痛み、溢れ零れる温かな涙を湛えた想い。 それは、一滴たりとも他の誰かに向ける訳にはいかないから。 せつなの中に巣食う菌糸のような膿んだ傷。 今日、祈里には気取られてしまっただろう。 祈里は罪の意識に苛まれているかも知れない。 いや、間違いなくせつなの中の祈里に対する恐怖を見付け、自分を責めているだろう。 痛々しいまでの笑顔。 それでも、せつなはもう一度自分から祈里に触れる事は出来なかった。 手を取って、「大丈夫よ。」、そう微笑めば祈里はホッとしただろうに。 それでも…、瞬時に粟立った肌と震える手は誤魔化せそうになかったから。 布団の中でラブに全身を押し付ける。 (まだ…駄目なのかしら…) まだ傷は痛んでいる。血は流れ続けている。悪夢は途切れる事なくやってくる。 まだ、ラブには信用して貰えそうにない。 大丈夫、平気よ。そう笑って見せても余計に心配を掛けてしまうだろう。 以前、ラブに言われた。 せつなを安心させてあげられてなかった。 だから、信じて貰えなかった。 今なら、その意味が分かる。 せつなの大丈夫、は無理していると言う事。 せつなの心配しないで、は痛くて堪らないと言う事。 そしてボロボロになりながら、平気よ。と笑うのだ。 多分、ラブにはそう受け取られている。無理もない。 偽りの姿で始まった出会いだったから。 何度も嘘を付いたから。 騙し、振り回そうとしたから。 そして、自分を大切にする。そんな事、考えた事もなかったから。 せつなはラブの胸に顔を埋め、その鼓動を聞く。 規則正しく脈打つ命。子守唄のように愛しい響き。 お互いの鼓動を捧げ合った片身。 どうすれば、分かって貰えるだろう。 痛む傷。だけど以前よりも疼かなくなってきている。 流れる血。だけどもう止まっている時間の方が長い。 追い掛けてくる悪夢。それも毎晩ではなくなった。 目を覚ましても泣いている事も減っている。 (ねえ、ラブ。私、あなたが思ってるほど辛くはないのよ…。) 確かに傷は癒えてはいない。 それでも、だんだん傷は小さくなっていってる。 傷痕は残るだろう。古傷となって思い出したように痛む事もあるかも知れない。 だから、ラブ。我が儘を言うけど許して欲しいの。 私、ちゃんと治して行くから。 痛みに知らんぷりせず。ちゃんと向き合うから。 待ってて欲しい。 一緒に、手を繋ぎながら。 あなたが側にいてくれる。 あなたの一番近くにいたい。 だからこそ、自分の足で立っていられるようになりたいの。 ………… ……………………… せつなに関してはあたしは異常に勘が働くのかも知れない。それとも虫の知らせ? 壁の向こうの様子を伺い、何となく部屋を覗く。 寝苦しそうにしている時もそうでない時も、夢見の悪い時は分かるようになった。 せつなは人の気配に敏感。 良く眠れている時はあたしが部屋に入った時点で気付いている。 逆に悪夢に囚われている時ほど中々目覚めない。 はっと目を開け、あたしの顔を見てホッと息を付く。 あたしはなるべく穏やかな顔をするように頑張る。せつなに安心して貰いたくて。 心配そうな顔するとせつなの方が無理して笑おうとしちゃうんだよね。 ごめんね。 ありがとう。 せつなは何度も言うけど、あたしどうすれば一番いいのかな。 せつなは少し変わってくれた。 ちゃんと言ってくれる。「辛い」、って。「心が痛い」、って。「まだ…見たくない夢を見る」、って。 でも、その後こう言うんだよね。 でも、大丈夫だから。 だんだん痛く無くなってきてるから。 夢も見なくなってきてるから。 今はまだ平気じゃない時もあるけど、癒える傷だって分かってるから……って。 でもね、せつな。その傷が癒えるのはいつなの? いつかは治るって事は、今はまだ治ってないって事でしょう?まだ痛くて辛くて怖いんでしょう? 祈里に会う度に固まった瘡蓋が剥がれるんだよね。 塞がりかけた傷が口を開けるんだよね。 あたし、せつなが一番大事なんだよ。 四人でいることより、せつなが辛くない方がいい。 あたしね、あんまり頭よくないから勘違いしそうになるんだ。 ブッキーとせつなが一緒に笑ってる。楽しそうに話してる。 ひょっとして、あの事そのものが悪い夢だったんじゃないかって。 ブッキーがあんな事するはずない。 全部…全部本当は幻だったんじゃないか……って。 ごめんね、せつな。 あたし、そんな自分が許せないんだ。 せつなはあたしにブッキーを許して欲しいって思ってるかも知れないね。 そうなんだ。あたし、弱いからせつなが笑ってくれてるとそれに甘えそうになるんだよ。 何もかも、無かった事にしたい誘惑に駆られるんだ。 知らんぷりして、ブッキーと元通りの仲良しになっちゃいそうに。 あたし、そんな自分が一番許せないんだよ。 せつなが許してもあたしは許しちゃいけないんだ。 せつなが忘れてもあたしは忘れちゃいけないんだ。 ブッキーに、あたしが許したがってるって…悟られちゃいけないんだよ。 「せつな、大好き……。」 「……うん、私も…。」 抱き締め、じゃれ合う内に解れてきたせつなの体。 甘えるように胸に顔を押し付け、目を閉じている。 お腹の辺りにせつなの胸を感じる。トクン、トクンと鼓動さえ優しく脈打つ気がするのは何故なんだろう。 「……あー、マズイな…。」 「…どしたの?」 「……ちょっと…、エッチな気分になってきちゃった…。」 一瞬目を丸くしたせつなは、ぷっと吹き出すと堪えきれないように笑い出した。 「なによぅ。笑う事ないじゃん。真面目に困ってるのに。」 「だから、どして困るの?構わないのに。」 「うー。じゃあお願いしますとも言いにくいじゃん。眠れないからってさぁ…。」 クスッと笑ったせつなが吐息まで蕩けそうなキスをくれる。 それだけで、頭がぼうっとなりそうだった。 今度はあたしがせつなの胸に顔を埋める。 あたしだけのせつな。こんな風に、せつなから求めて貰えるのはあたしだけなんだ。 つい、祈里の辛さに思いを馳せそうになる。 もし、立場が逆だったら。今こうしているのが祈里で、あたしは一人せつなを思って暗いベッドでうずくまっていたら。 あんな風に、微笑む事が出来るだろうか。 ダメ…、考えちゃ駄目。 せつなから安らかな眠りを奪ったのは間違いなく祈里なのだから。 愛した人に怯えた目で退かれる。 それがどれほど心を凍らせるのか。 それでも、胸の奥に刺さった棘。それを引き抜いて投げ付ける。 そんな事しか出来ない。 傷付く祈里を見て自分を納得させてる。 全部、あなたが悪いんだから…… ブッキーの笑顔を見て胸が痛むなんて気のせいだ。自業自得なんだから。 どんなにブッキーが泣いたって、きっとせつなが泣いた何分の一にもならないんだから。 ねえ、せつな。本当に平気なの? 傷を癒す事よりも、悪夢に追い立てられながら四人で過ごす事の方が大事なの? そう聞いても、きっとせつなはこう言うんだろうな。 にっこり笑って、「私は平気よ……」って。 ねえ、ブッキー。辛い? せつなは今もあたしの腕の中にいるんだよ。 もう二度と、あなたは触れる事も出来ないんだよ。 それでもいいの? ただ微笑んで側にいる。ずっとそれで我慢出来るの? あたしには、無理だ。 今の辛さもせつながあたしを選んでくれたから耐えられてる。 ブッキー、本当にいいの? このまま、ゆっくり壊れていくかも知れないのに。 み-151へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/397.html
81 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 15 52 ミユキ「あれ4人とも、今日はダンスレッスンの約束、してたっけ?」 82 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 19 36 ラ「あ、ミユキさん!今日は久しぶりに暇なんでみんなとドーナツ食べに。」 美「昨日はお疲れ様でした!」 祈「ミユキさんこそどうしたんですか?」 せ「良かったら一緒に…」 83 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 25 20 「全然FUKOが集まらんではないか!どーなってるんだ!?」 「落ち着きなよ。君も飲むかい?」 「太るわ!」 (私がFUKOになるわよ、ここにいたら…。) 84 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 30 30 ミユキ「嬉しーw私もウキウキしたかったの」 美希「そういえばミユキさんって好きな人いるんですか」 ラブ「聞きたい聞きたい!」 せつな「嫌な予感…」 85 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 35 58 祈里「どうか美希ちゃんじゃありませんように…」 美希「どうかブッキー以下略」 せつな「どうかラブ以下略」 ラブ「ね、ね、ミユキさん、あたしでしょ?あたしだよね?」 ミユキ「こくん」(真っ赤っ赤) せつな「吹き荒れよ、ヤキモチの嵐!!」 86 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 37 52 …ぴちょん 「あ、一滴キター」 「もうラビリンス帰りたいわ」 87 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 51 18 ミユキ「でもね、ラブちゃんにはせつなちゃんがいるから。」 せつな「ミユキさん…」 美希(大人だな、ミユキさんて…。ポッ) 祈里「!?カオルちゃん、ドーナツいーーーーーっぱい持ってきて!!!」 ノーザ「何が起こってるのかしら。」 ウエスター「たまには自分で調べてこいノーザ。」 ノーザ「さん付けなさいと何度言えば…。スイッチ」 サウラー「!?」 88 :名無しさん:2009/11/01(日) 12 09 18 87 「ダメよ祈里ちゃん。食べすぎはダンスに影響するわよ。」 「いいんです!」 「ね。食べてもいいから、ゆっくり噛んで。」 「あ…」 「すごいわね、ミユキさん。」 「あたしの憧れだもん。」 「完璧すぎる…わ。」 89 :名無しさん:2009/11/01(日) 12 09 20 ウエスター「なゆた…さん」 ノーザ「ま。なあに隼人くん」 サウラー「あの…瞬もいますけど…」 90 :名無しさん:2009/11/01(日) 12 10 43 89 クライン「時間です」 3人「!!!???」 91 :名無しさん:2009/11/01(日) 12 20 44 Prrrr… ミユキ「はい、あ、わかりました」 皆「どうしたんですか?」 ミユキ「トリニティで撮影入っちゃったの。ごめんまた埋め合わせするね。じゃあね」 ラブ「ミユキさあーん…」 せつな(広い心広い心広い心広い…) 美希「せつな…目がいっちゃってる」 祈里「ヒーリングプレアー!」 92 :名無しさん:2009/11/01(日) 12 32 07 カオルちゃん「やっぱ青春だねぇ。」 タルト「こんなんばっか続けられてもこっちはねられへんがな」 シフォン「キュアキュアプリプー!」 せつな「え!?」 ラブ「うおっ」 ちゅ~ 美希「な。。。」 ブッキー「わたしは癒しただけだよ?」 93 :名無しさん:2009/11/01(日) 12 35 23 90 クライン「今日は不要データ消去(一斉大掃除)でラビリンスに出張です。お忘れですか」 ノーザ「うざ」 ウエスター「めんどくさっ」 サウラー「おまいら…寿命縮まんぞ」 94 :名無しさん:2009/11/01(日) 12 44 06 92 タルト「あかんシフォン。ベリーはんとパインはんにもせなあかん。」 95 :名無しさん:2009/11/01(日) 13 02 55 94 「zzzzz」 「なんでねとんねん!!!」 「ブッキー。アタシ…」 「うん。」 チュっ 「シフォン必要なかったんかい!あかん、わてはもう疲れたー」 96 :名無しさん:2009/11/01(日) 13 41 57 ラブ「やっぱあたしたちって切っても切れない仲とゆーか。」 せつな「そうね。」 美希「時々ケンカしちゃうぐらいがちょうどイイのかもね。」 ブッキー「これもしあわせなのかな?」 97 :名無しさん:2009/11/01(日) 15 31 04 美「そう言えばオメガバーガーでキャンペーン始まったって言ってたけど」 せ「キャンペーンて何?」 98 :名無しさん:2009/11/01(日) 15 38 18 97 ラブ「行ってみればわかるよ!」 祈里「甘い物ばっかりでお昼食べてないしね。」 せつな「まさか、、、」 美希「歩いていくわよ。使わないから、アカルンは。」 99 :名無しさん:2009/11/01(日) 16 19 43 すっかり秋が訪れた四葉町。四人の少女たちは、束の間の休息を存分に楽しんでいる。 「せつなちゃんは秋って好き?」 「秋?」 「せつな、四季ってわかるかな。」 「夏は暑かったでしょ。秋は暑い日もあれば一気に寒くなったりもするのよ。」 ラビリンスでは感じなかった季節の変わり目。 そして人との触れ合い。温もり。優しさ。 それを教えてくれたのは紛れも無い---- ラブ 美希 祈里 そしてこの四葉町。 「私、秋も好きだけど…」 「だけど?」 「ラブや美希もブッキーも好きよ!」 「せつな…」 「せつなちゃん…」 「あたし嬉しい。せつなはたっくさんのしあわせゲットして欲しい!美希たんやブッキーもね!」 今日から11月。今年も終わりが近付いてくる。 けれど、四人の少女たちの一日。一時間。一分。過ぎて行く全てが貴重な宝物になる。 「お先に行くわよ。」 「待ってよせつな!」 「かけっこなら負けないんだから!」 「おいてかないでー」 100 :名無しさん:2009/11/01(日) 16 48 39 ラブ「ついたよ~」 せつ「『プリキュアカードキャンペーン』って・・・」 ラブ「なんかウキウキセットてのを頼めば特製プリキュアカードが貰えるらしいよ。」 美希「これって肖像権とかどうなってんのかしら・・・」 祈里「まあ、堅いことは考えないでおこうよ~」 ラブ「なになに、『各プリキュアの4種類のカード。好きなペアで組み合わせることができるよ。シークレットもあり。』だってさ。」 3人「(ゴクリ)」 101 :由美:2009/11/01(日) 16 53 24 「やったー!ピーチとパッション当たった!次はベリーとパインだね!」 「まだ食べるのかよ?」「食べるのは先輩の仕事でしょ!」 「由美…」 「私たちって人気あるのね。」 「そりゃ四つ葉町のヒロインだもの。」 「何か恥ずかしいね。」 102 :名無しさん:2009/11/01(日) 17 08 52 もうひとつ、オメガバーガーでは秋のスペシャルキャンペーンを開催していた。 超ビッグなスーパーキングオメガバーガー、略してSKOBを友達と協力し合って残さず食べると、空クジなしのクジが引けるというもの。 当たりの景品には様々な商品があり、どれも欲しいものばかり。 「せつな…用意はいい?」 「もちろん。精一杯頑張るわ」 「美希たんは?」 「アタシだって完璧よ!」 「ブッキーはどう?」 「私たちなら必ず出来るって、信じてる!」 「じゃあ皆行くよ!SKOBで幸せゲットだよ!」 「オウ!」 こうして、チームワークの良さが結果に繋がり、無事に食べ終わり、クジを引くことに。 「誰がひく?」 「もちろんのラブで決まりよ」 「それがいいわ」 「私もそう思う」 「じゃあ引くよ…ドキドキ…えいっ!あ、チーム全員にプリキュア映画のチケットだって」 103 :名無しさん:2009/11/01(日) 17 29 36 102 せつな「やったわ!映画のチケットよ!」 美希「う、嬉しいんだ…」 祈里「まぁ4人で行けばいいんだし。」 ラブ(そっか。せつなはまだ映画行った事ないんだっけ……) 104 :名無しさん:2009/11/01(日) 17 43 39 103 美希「けどさすがに、今日見に行くには遅い時間よね…」 105 :名無しさん:2009/11/01(日) 17 49 18 104 ラ「来週の土曜日、みんな空けといてよ!」 美「アタシはOKよ。」 ブ「うん。わたしも大丈夫だよ。」 せ「何か緊張してきたわ…。」 106 :名無しさん:2009/11/01(日) 17 56 48 105 ラブ「映画のあとは美希たん家でパジャマパーティーパート2したいな」 美希「オッケー、ママに聞いてみるわ」 107 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 01 22 祈里「明日は月曜日だし、もう帰らないと。皆は?」 108 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 03 19 美希「そうね、さすがに2日続けてお泊りは無理よね」 祈里「いいなーラブちゃんとせつなちゃんは」 109 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 05 07 ラブ「……あ、宿題……全然やってない」 110 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 07 28 せつな「私は読みたい本があるから手伝わないわよ」 111 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 15 47 ラブ「そんなあ、今度ドーナツおごるから手伝ってよ~」 せつな「ダメよ」 ラブ「明日の夕ご飯もハンバーグにするから」 せつな「ダメ」 ラブ「終わったら一晩あたしのこと好きにしていいから」 せつな「だ……ダメ」 ラブ「一週間おかずにピーマン使わないから」 せつな「う~ん」 祈里「そっちで考え込んじゃうの?」 112 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 15 49 美希「そうね、やっぱりラブ自身の為にはならないものね。ここは心を鬼にして・・・。」 ラブ「そ、そんな~。いえ、タダとは言いませんよ、お手伝いいただければ豪華景品を・・。」 美希「とかいって、この間の夏休みの宿題の時みたいに、『チュウ』なんてことはないでしょうね?」 ラブ「(ギクっ)」 113 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 31 03 せつな「やっぱりね。その手は食わないわよ」 ラブ「ううう…じゃあブッキーん家に泊まりこんで教えてもらおっかなー」 114 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 33 04 ラブ「ブッキーは宿題教えて?あたしは他のことを手取り足取り教えるから」せつな「ムキー!ラブ帰ってすぐに宿題開始よ!」 ラブ「ニハハw」 115 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 36 52 祈里「行っちゃったね、ラブちゃん達」 美希「まったく慌しい……まあ、あの二人はそれくらいが丁度いいのかもね」 祈里「じゃあ私達の場合は?」 美希「ん?言って欲しいの?」 祈里「言葉か、態度か、どっちかで示してほしいな……」 116 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 38 48 ちゅっちゅっちゅっ ちゅぱっちゅぱっ 美希「ハアハア…ちょっと激し過ぎたかしら」 117 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 40 11 祈里「こんなの初めて…」 118 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 45 43 祈里「もっとして欲しいけど…」 美希「ええ、アタシ達も行きましょ!」 119 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 46 28 祈里「今から美希ちゃん家行っちゃダメ?」 美希「ダメな訳ないじゃない…」 ふたりは肩を寄せ合い、美希の家へと歩きはじめた。 120 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 06 14 せつな「あっと言う間の二日間だった気がするわ。」 ラブ「うん。」 せつな「ありがと。」 ラブ「何か照れるなぁ。」 そっと手を出すせつな。 それに応じるラブ。 家までもう少し。 121 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 08 20 せつな「私、毎日幸せよ。美希やブッキー…皆がいてくれるから。もちろんラブのおかげ」 122 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 20 54 121 黙り込むラブ。 走馬灯のように蘇るあの日。 まだ出会って八ヶ月だと言うのに。 ――運命―― 握っていた手を放し、突然駆け出す。 123 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 37 01 せつな「ちょっとラブ!」 ラブ「あたし、絶対幸せにするよーーーーー!」 せつな(もう。言われなくてもそうしてくれなきゃ困るわよ。) 124 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 38 57 119 ブッキー「今頃ラブちゃんとせつなちゃんどうしてるかな?」 美希「今はアタシたちの時間でしょ?」 ブッキー「ふふ。そうだったね。」 125 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 51 15 祈里「でもね美希ちゃん。私たち3人がプリキュアになって、ダンスを始めて、そこへせつなちゃんが加わって・・。もっともっと楽しいことが続くんだって、わたし信じてる。」 美希「もちろんブッキーを幸せにするのはアタシだけなんだけどね。」 祈里「美希ちゃん・・・。」 美希「アタシ完璧!。」 126 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 51 32 123 「さ、寝るまでたっぷり宿題やるわよ。精一杯頑張ってね。」 「優しく教えてくださーい…」 「もちろん。私を誰だと思ってるの?」 127 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 52 44 「あたしの恋人。」 128 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 55 40 ラブ「ねぇせつな…宿題がんばるから、寝る時ご褒美ちょうだいね?」 129 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 55 53 せつな「違うわ」 ラブ「え……?」 せつな「貴方の生涯のパートナーよ、ラブ」 130 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 55 59 125 祈里「好き…。」 美希「アタシも。」 131 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 58 30 128 129 「パートナーなんだから、ご褒美とかあげないわよ。」 「ぶぅ」 「だっていつでも…。出来るじゃない。」 「せつなー!」 132 :名無しさん:2009/11/01(日) 20 02 01 ラブとせつな。 美希と祈里。 4人は幸せ。4人の幸せはみんなの願い。 ~四葉町に幸あれ~ END
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/400.html
81 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 15 52 ミユキ「あれ4人とも、今日はダンスレッスンの約束、してたっけ?」 82 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 19 36 ラ「あ、ミユキさん!今日は久しぶりに暇なんでみんなとドーナツ食べに。」 美「昨日はお疲れ様でした!」 祈「ミユキさんこそどうしたんですか?」 せ「良かったら一緒に…」 83 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 25 20 「全然FUKOが集まらんではないか!どーなってるんだ!?」 「落ち着きなよ。君も飲むかい?」 「太るわ!」 (私がFUKOになるわよ、ここにいたら…。) 84 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 30 30 ミユキ「嬉しーw私もウキウキしたかったの」 美希「そういえばミユキさんって好きな人いるんですか」 ラブ「聞きたい聞きたい!」 せつな「嫌な予感…」 85 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 35 58 祈里「どうか美希ちゃんじゃありませんように…」 美希「どうかブッキー以下略」 せつな「どうかラブ以下略」 ラブ「ね、ね、ミユキさん、あたしでしょ?あたしだよね?」 ミユキ「こくん」(真っ赤っ赤) せつな「吹き荒れよ、ヤキモチの嵐!!」 86 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 37 52 …ぴちょん 「あ、一滴キター」 「もうラビリンス帰りたいわ」 87 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 51 18 ミユキ「でもね、ラブちゃんにはせつなちゃんがいるから。」 せつな「ミユキさん…」 美希(大人だな、ミユキさんて…。ポッ) 祈里「!?カオルちゃん、ドーナツいーーーーーっぱい持ってきて!!!」 ノーザ「何が起こってるのかしら。」 ウエスター「たまには自分で調べてこいノーザ。」 ノーザ「さん付けなさいと何度言えば…。スイッチ」 サウラー「!?」 88 :名無しさん:2009/11/01(日) 12 09 18 87 「ダメよ祈里ちゃん。食べすぎはダンスに影響するわよ。」 「いいんです!」 「ね。食べてもいいから、ゆっくり噛んで。」 「あ…」 「すごいわね、ミユキさん。」 「あたしの憧れだもん。」 「完璧すぎる…わ。」 89 :名無しさん:2009/11/01(日) 12 09 20 ウエスター「なゆた…さん」 ノーザ「ま。なあに隼人くん」 サウラー「あの…瞬もいますけど…」 90 :名無しさん:2009/11/01(日) 12 10 43 89 クライン「時間です」 3人「!!!???」 91 :名無しさん:2009/11/01(日) 12 20 44 Prrrr… ミユキ「はい、あ、わかりました」 皆「どうしたんですか?」 ミユキ「トリニティで撮影入っちゃったの。ごめんまた埋め合わせするね。じゃあね」 ラブ「ミユキさあーん…」 せつな(広い心広い心広い心広い…) 美希「せつな…目がいっちゃってる」 祈里「ヒーリングプレアー!」 92 :名無しさん:2009/11/01(日) 12 32 07 カオルちゃん「やっぱ青春だねぇ。」 タルト「こんなんばっか続けられてもこっちはねられへんがな」 シフォン「キュアキュアプリプー!」 せつな「え!?」 ラブ「うおっ」 ちゅ~ 美希「な。。。」 ブッキー「わたしは癒しただけだよ?」 93 :名無しさん:2009/11/01(日) 12 35 23 90 クライン「今日は不要データ消去(一斉大掃除)でラビリンスに出張です。お忘れですか」 ノーザ「うざ」 ウエスター「めんどくさっ」 サウラー「おまいら…寿命縮まんぞ」 94 :名無しさん:2009/11/01(日) 12 44 06 92 タルト「あかんシフォン。ベリーはんとパインはんにもせなあかん。」 95 :名無しさん:2009/11/01(日) 13 02 55 94 「zzzzz」 「なんでねとんねん!!!」 「ブッキー。アタシ…」 「うん。」 チュっ 「シフォン必要なかったんかい!あかん、わてはもう疲れたー」 96 :名無しさん:2009/11/01(日) 13 41 57 ラブ「やっぱあたしたちって切っても切れない仲とゆーか。」 せつな「そうね。」 美希「時々ケンカしちゃうぐらいがちょうどイイのかもね。」 ブッキー「これもしあわせなのかな?」 97 :名無しさん:2009/11/01(日) 15 31 04 美「そう言えばオメガバーガーでキャンペーン始まったって言ってたけど」 せ「キャンペーンて何?」 98 :名無しさん:2009/11/01(日) 15 38 18 97 ラブ「行ってみればわかるよ!」 祈里「甘い物ばっかりでお昼食べてないしね。」 せつな「まさか、、、」 美希「歩いていくわよ。使わないから、アカルンは。」 99 :名無しさん:2009/11/01(日) 16 19 43 すっかり秋が訪れた四葉町。四人の少女たちは、束の間の休息を存分に楽しんでいる。 「せつなちゃんは秋って好き?」 「秋?」 「せつな、四季ってわかるかな。」 「夏は暑かったでしょ。秋は暑い日もあれば一気に寒くなったりもするのよ。」 ラビリンスでは感じなかった季節の変わり目。 そして人との触れ合い。温もり。優しさ。 それを教えてくれたのは紛れも無い---- ラブ 美希 祈里 そしてこの四葉町。 「私、秋も好きだけど…」 「だけど?」 「ラブや美希もブッキーも好きよ!」 「せつな…」 「せつなちゃん…」 「あたし嬉しい。せつなはたっくさんのしあわせゲットして欲しい!美希たんやブッキーもね!」 今日から11月。今年も終わりが近付いてくる。 けれど、四人の少女たちの一日。一時間。一分。過ぎて行く全てが貴重な宝物になる。 「お先に行くわよ。」 「待ってよせつな!」 「かけっこなら負けないんだから!」 「おいてかないでー」 100 :名無しさん:2009/11/01(日) 16 48 39 ラブ「ついたよ~」 せつ「『プリキュアカードキャンペーン』って・・・」 ラブ「なんかウキウキセットてのを頼めば特製プリキュアカードが貰えるらしいよ。」 美希「これって肖像権とかどうなってんのかしら・・・」 祈里「まあ、堅いことは考えないでおこうよ~」 ラブ「なになに、『各プリキュアの4種類のカード。好きなペアで組み合わせることができるよ。シークレットもあり。』だってさ。」 3人「(ゴクリ)」 101 :由美:2009/11/01(日) 16 53 24 「やったー!ピーチとパッション当たった!次はベリーとパインだね!」 「まだ食べるのかよ?」「食べるのは先輩の仕事でしょ!」 「由美…」 「私たちって人気あるのね。」 「そりゃ四つ葉町のヒロインだもの。」 「何か恥ずかしいね。」 102 :名無しさん:2009/11/01(日) 17 08 52 もうひとつ、オメガバーガーでは秋のスペシャルキャンペーンを開催していた。 超ビッグなスーパーキングオメガバーガー、略してSKOBを友達と協力し合って残さず食べると、空クジなしのクジが引けるというもの。 当たりの景品には様々な商品があり、どれも欲しいものばかり。 「せつな…用意はいい?」 「もちろん。精一杯頑張るわ」 「美希たんは?」 「アタシだって完璧よ!」 「ブッキーはどう?」 「私たちなら必ず出来るって、信じてる!」 「じゃあ皆行くよ!SKOBで幸せゲットだよ!」 「オウ!」 こうして、チームワークの良さが結果に繋がり、無事に食べ終わり、クジを引くことに。 「誰がひく?」 「もちろんのラブで決まりよ」 「それがいいわ」 「私もそう思う」 「じゃあ引くよ…ドキドキ…えいっ!あ、チーム全員にプリキュア映画のチケットだって」 103 :名無しさん:2009/11/01(日) 17 29 36 102 せつな「やったわ!映画のチケットよ!」 美希「う、嬉しいんだ…」 祈里「まぁ4人で行けばいいんだし。」 ラブ(そっか。せつなはまだ映画行った事ないんだっけ……) 104 :名無しさん:2009/11/01(日) 17 43 39 103 美希「けどさすがに、今日見に行くには遅い時間よね…」 105 :名無しさん:2009/11/01(日) 17 49 18 104 ラ「来週の土曜日、みんな空けといてよ!」 美「アタシはOKよ。」 ブ「うん。わたしも大丈夫だよ。」 せ「何か緊張してきたわ…。」 106 :名無しさん:2009/11/01(日) 17 56 48 105 ラブ「映画のあとは美希たん家でパジャマパーティーパート2したいな」 美希「オッケー、ママに聞いてみるわ」 107 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 01 22 祈里「明日は月曜日だし、もう帰らないと。皆は?」 108 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 03 19 美希「そうね、さすがに2日続けてお泊りは無理よね」 祈里「いいなーラブちゃんとせつなちゃんは」 109 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 05 07 ラブ「……あ、宿題……全然やってない」 110 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 07 28 せつな「私は読みたい本があるから手伝わないわよ」 111 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 15 47 ラブ「そんなあ、今度ドーナツおごるから手伝ってよ~」 せつな「ダメよ」 ラブ「明日の夕ご飯もハンバーグにするから」 せつな「ダメ」 ラブ「終わったら一晩あたしのこと好きにしていいから」 せつな「だ……ダメ」 ラブ「一週間おかずにピーマン使わないから」 せつな「う~ん」 祈里「そっちで考え込んじゃうの?」 112 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 15 49 美希「そうね、やっぱりラブ自身の為にはならないものね。ここは心を鬼にして・・・。」 ラブ「そ、そんな~。いえ、タダとは言いませんよ、お手伝いいただければ豪華景品を・・。」 美希「とかいって、この間の夏休みの宿題の時みたいに、『チュウ』なんてことはないでしょうね?」 ラブ「(ギクっ)」 113 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 31 03 せつな「やっぱりね。その手は食わないわよ」 ラブ「ううう…じゃあブッキーん家に泊まりこんで教えてもらおっかなー」 114 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 33 04 ラブ「ブッキーは宿題教えて?あたしは他のことを手取り足取り教えるから」せつな「ムキー!ラブ帰ってすぐに宿題開始よ!」 ラブ「ニハハw」 115 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 36 52 祈里「行っちゃったね、ラブちゃん達」 美希「まったく慌しい……まあ、あの二人はそれくらいが丁度いいのかもね」 祈里「じゃあ私達の場合は?」 美希「ん?言って欲しいの?」 祈里「言葉か、態度か、どっちかで示してほしいな……」 116 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 38 48 ちゅっちゅっちゅっ ちゅぱっちゅぱっ 美希「ハアハア…ちょっと激し過ぎたかしら」 117 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 40 11 祈里「こんなの初めて…」 118 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 45 43 祈里「もっとして欲しいけど…」 美希「ええ、アタシ達も行きましょ!」 119 :名無しさん:2009/11/01(日) 18 46 28 祈里「今から美希ちゃん家行っちゃダメ?」 美希「ダメな訳ないじゃない…」 ふたりは肩を寄せ合い、美希の家へと歩きはじめた。 120 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 06 14 せつな「あっと言う間の二日間だった気がするわ。」 ラブ「うん。」 せつな「ありがと。」 ラブ「何か照れるなぁ。」 そっと手を出すせつな。 それに応じるラブ。 家までもう少し。 121 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 08 20 せつな「私、毎日幸せよ。美希やブッキー…皆がいてくれるから。もちろんラブのおかげ」 122 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 20 54 121 黙り込むラブ。 走馬灯のように蘇るあの日。 まだ出会って八ヶ月だと言うのに。 ――運命―― 握っていた手を放し、突然駆け出す。 123 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 37 01 せつな「ちょっとラブ!」 ラブ「あたし、絶対幸せにするよーーーーー!」 せつな(もう。言われなくてもそうしてくれなきゃ困るわよ。) 124 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 38 57 119 ブッキー「今頃ラブちゃんとせつなちゃんどうしてるかな?」 美希「今はアタシたちの時間でしょ?」 ブッキー「ふふ。そうだったね。」 125 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 51 15 祈里「でもね美希ちゃん。私たち3人がプリキュアになって、ダンスを始めて、そこへせつなちゃんが加わって・・。もっともっと楽しいことが続くんだって、わたし信じてる。」 美希「もちろんブッキーを幸せにするのはアタシだけなんだけどね。」 祈里「美希ちゃん・・・。」 美希「アタシ完璧!。」 126 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 51 32 123 「さ、寝るまでたっぷり宿題やるわよ。精一杯頑張ってね。」 「優しく教えてくださーい…」 「もちろん。私を誰だと思ってるの?」 127 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 52 44 「あたしの恋人。」 128 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 55 40 ラブ「ねぇせつな…宿題がんばるから、寝る時ご褒美ちょうだいね?」 129 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 55 53 せつな「違うわ」 ラブ「え……?」 せつな「貴方の生涯のパートナーよ、ラブ」 130 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 55 59 125 祈里「好き…。」 美希「アタシも。」 131 :名無しさん:2009/11/01(日) 19 58 30 128 129 「パートナーなんだから、ご褒美とかあげないわよ。」 「ぶぅ」 「だっていつでも…。出来るじゃない。」 「せつなー!」 132 :名無しさん:2009/11/01(日) 20 02 01 ラブとせつな。 美希と祈里。 4人は幸せ。4人の幸せはみんなの願い。 ~四葉町に幸あれ~ END